結局そのまま2人とも黙りこくっていたら何時の間にか空が白みはじめたので互いに何も言わず戻っていった。
何もないのに朝帰りするなんて、なんだか嫌な気分である。何かあったらあったで嫌すぎるが
そして室に戻れば、室においていた、もしも余裕をもって任意的にもとの世界に戻れるとなったときに持って帰る、妹用の土産の簪が、見事なまでに墨やら染料やらで汚されて壁の藁人形に刺してあった。
新品できれいに保存してあった簪が、見事に骨董品並の年季の入った汚れ具合。これはもう、落ちそうにない。
ぶちり、とどこかで何かの切れる音が聞こえた気がした。
徹夜した眠気もあいまって無意識のまま何か俺は行動したらしく、ハッとしたときには、何故か今まで嫌がらせをしたとかなんとかいう女官たちがひたすらに平伏し謝っていた。
「申し訳ありませんでしたああああっ! 私はまだ死にたくありません〜っ!」
「私が悪う御座いました!どうぞお情けをおおお!」
「……いや、あの、もういいです。気にしてませんから」
途端にパッと顔を明るくさせる彼女たち
「やはり華蓮様は器が大きくて寛大でいらっしゃるわ!ああ、貴女についていきます!!」
「私達の恥ずべき行為、赦されることではありません。一生ついて償わせていただきとうございます」
何故か涙して華蓮様、と口々に言う
「………うん、なんか、ごめんね」
俺、一体何をしたんだろう。そしてどうしてこうなった。
非常に自分のしたことが怖かった
「すごい人気ね、次の筆頭女官は華蓮さんだって皆噂してるなんて」
さすが女の園、噂やら何やらのまわりははやいらしい。ではなくて、
「な、なんです? それ」
「あら、今の筆頭女官さん、お歳を召されてるからそろそろ後宮を辞すことになっているのよ、だからその次は誰がなるかというお話だったのだけれど……」
ちら、とベテラン女官さんがこちらをみる
「本当は私が受けるよう、言われていたのだけれどね。実は私、結婚することになったのよ。しかも急に。候補が後宮からのくとなってそぞろたっていたのだけれど」
「そ…それは、なんともまあ、オメデトウゴザイマス…」
「だから私にきていたお話は華蓮さんが受けると、上にも伝えておくわ。頑張ってね」
にこりと柔らかく微笑むベテラン女官さんの言葉に、俺は全機能一時停止した。
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