焦った。非常に焦った。
礼を返して目を逸らされた瞬間に足音を殺してひたすら逃げ走ったのだから。
そして戻ってきてしまった後宮。
室に戻れば入口の扉が微妙にあいており、不審におもいあたりをみれば。
これは小学生の黒板消しのノリかあああああ!
白粉の入った小箱が挟まれていた。
はぁ、と溜息をつき中の白粉をこぼさないようにそっと小箱をとる
ふと白粉の中に折りたたまれた手紙らしきものが入っていることに気付いた。
適当な紙を床にひき、その上に箱の中身を広げ、中の手紙を粉を払い広げれば、何故か見えたのは見知った文字。
「夜に離れの庭で会う約束とか、逢瀬かよ」
殲華のしたいことがわからなかった。いや、俺への嫌がらだろうけどね!愛情の裏返しの次波がおそろしいんだよ!!
でも行かなければ更に酷い仕打ちになるはず
俺はまた溜息をついた。
今日は新月だった。月明かりさえなく暗い夜。ある程度夜目がきいてよかった。でなければ確実に行けない
庭にいけば先に殲華が来ていたようだった。名を添えない文と新月に嫌味を込めて言う
「彼は誰の君」
要するに「あんただあれ君」、だ。
くっく、と殲華は笑った
「こんな逢瀬もいいだろう?」
「寝言は寝て言おうねー、疲れてるんじゃねえ? 大丈夫か?」
むしろ頭が湧いたか
「こんなこと、前まで考えられなかったんだぞ。いつ訪ねてくれるか待つばかりで。それがこんなに近くにいるとなると、つい足を運んでしまう」
だめだ、重症だ。言葉だけきけば恋人に囁いているようにしかきこえない。この人は、ただ友人に会えなかった寂しさを口にしていただけだったのだろうが。
「名前、呼べ」
「彼は誰の君」
「それじゃない」
びしっと言われ渋々口にする
「殲華。『殲』(ほろ)ぼす様は『華』々しい、の殲華。せんかー」
「物騒な名だ」
自分で言うのか。名は体をあらわすと言う言葉に相応しい生き様の彼が
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bkm