「……棚夏殿」
「何?」
「どうして付いてくるんです!」
「ならどうして絳攸は府庫に向かっているの?執務室はあっちだけど」
「……ッ、べ、別に、気にしないでください」
「あ、そう?」
妙に喧嘩腰の二人は、そうして無言で府庫への道を歩き始めた。しばらくの沈黙が何故か苦しくなった絳攸は、ぐるりと来た道に向き直り、立ち止まった。
「そうそう、そっちの道で、執務室は次の角を左ね」
「……分かってますッッ」
本当は分かってなどいなかったが、絳攸はそう語気荒く言ったあとズンズンと進み始めた。
「だからその角を左だって、真っ直ぐいったら行き止まりだよ」
「……何も言わないで下さい」
「嫌だ」
「俺だって嫌です、とやかく言われたくありません!」
「だからって見てらんないよ、絳攸。お前、何してるか自分で本当に分かってるか?」
「……――それは」
それは、道のことか、それとも――
「答えは自分で見つけてくれればいいと思う、けどさ、手掛かり全部、お前見て見ぬ振りなんじゃん。俺、何のために何したか分からないだろ、これじゃ……」
「…俺は、そんなこと頼んでなんかいません」
絳攸は、櫂兎の表情をみずに、逃げるように早足でその場を去った。
「……俺のしてきたことは、押し付けかぁ」
空笑いすらできず、櫂兎はただ悲しそうな顔でその場に佇んだ。
(……しかも、道、また違うし)
ため息をつくも、今は何をするのも得策ではないかと櫂兎は府庫へ向かい始めた。
落ち込んだ櫂兎を見とめた邵可は、何も言わず茶を淹れた。
櫂兎は何も言わずそれを受け取り、啜った。
「苦い」
それは、己の心境のようだった。
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