欠けゆく白銀の砂時計 12
「……棚夏殿」

「何?」

「どうして付いてくるんです!」

「ならどうして絳攸は府庫に向かっているの?執務室はあっちだけど」

「……ッ、べ、別に、気にしないでください」

「あ、そう?」


妙に喧嘩腰の二人は、そうして無言で府庫への道を歩き始めた。しばらくの沈黙が何故か苦しくなった絳攸は、ぐるりと来た道に向き直り、立ち止まった。


「そうそう、そっちの道で、執務室は次の角を左ね」

「……分かってますッッ」


本当は分かってなどいなかったが、絳攸はそう語気荒く言ったあとズンズンと進み始めた。


「だからその角を左だって、真っ直ぐいったら行き止まりだよ」

「……何も言わないで下さい」

「嫌だ」

「俺だって嫌です、とやかく言われたくありません!」

「だからって見てらんないよ、絳攸。お前、何してるか自分で本当に分かってるか?」

「……――それは」


それは、道のことか、それとも――


「答えは自分で見つけてくれればいいと思う、けどさ、手掛かり全部、お前見て見ぬ振りなんじゃん。俺、何のために何したか分からないだろ、これじゃ……」

「…俺は、そんなこと頼んでなんかいません」


絳攸は、櫂兎の表情をみずに、逃げるように早足でその場を去った。


「……俺のしてきたことは、押し付けかぁ」


空笑いすらできず、櫂兎はただ悲しそうな顔でその場に佇んだ。


(……しかも、道、また違うし)


ため息をつくも、今は何をするのも得策ではないかと櫂兎は府庫へ向かい始めた。







落ち込んだ櫂兎を見とめた邵可は、何も言わず茶を淹れた。
櫂兎は何も言わずそれを受け取り、啜った。


「苦い」


それは、己の心境のようだった。

12 / 31
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -