射し込む朝日のまぶしさに、櫂兎は目を覚ました。
「……新年、か」
瞼をこすり、しばらく寝ぼけた風にぽけぇとしていた櫂兎は、隣をみる。邵可が書物を繰っていた。
「おはよう、明けましておめでとう」
「んあぁ、今年もよろしく」
それから、大きなあくびをして、ようやくはっきりしてきた意識の中で、ふっと気付く。
――劉輝、来なかったな
朝賀の前に茶でもしないかと誘った――筈なのだが。忘れているのか、それとも、王として朝賀に向かうことを決めたか。
(後者…だろうな)
「……『王になどなるものではないな』、か」
邵可は、櫂兎が寝起きなこともあり、突拍子もないことを発言しても何も驚かなかった。
「今回は何なの」
「…いや、龍蓮が言ってたような気がして、それだけ」
絳攸は、一足でも早く劉輝へと秀麗の入都を知らせようと、執務室へ急ぎ足で向かっていた。
――はず、だった。
「執務室は何時の間に移動したんだぁ俺に断りもなく――ぅッ!」
確かに存在していたはずの執務室は、自分の知らないうちに跡形もなく消え去っていた。
(一体、誰が、どうやって、何故。どれもこれも全て、己を陥れるための罠か――!!)
自分が迷っていることを一向に認めようとしないで、絳攸は執務室を求め続けた。
「こっちか、いや…そっちか?」
「あっち」
ここ暫くはきいていなかった声がして、声のする方向をみれば、自分が向かおうとしていた方向と百八十度真逆を指した櫂兎がいた。
「棚夏…殿…」
「執務室になら案内してあげるよ」
「い、りません…。迷ってなんていませんから」
「嘘だ、迷ってるよ」
「俺はッ」
「……」
「……迷ってなど、いません」
「……そう」
櫂兎は、それ以上何も言わずに、壁にもたれかかることをやめた。
正確には迷ったのに気付かない振りをしていたことに、彼が気付くのはもう少し先の話である。
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