欠けゆく白銀の砂時計 13
あんな風に言うつもりではなかったのに、と絳攸は後悔していた。ただ、彼が言うことも、自分が考えていることも、全てが全て何が正しいのか分からなかった。


悩み歩いているうちに、無意識がはたらいてか執務室に到着した。櫂兎に戻って聞く羽目にならなくてよかったと思うと同時に、やはり自分は迷っていないのだと、根拠もなく自信を持ったのだった。
そして気持ちを切り替え、秀麗の入都を待ち侘びているであろう劉輝にそれを告げるため、執務室に一歩踏み込んだ。








「野次馬根性極まれり、かな」


百官が参列する正式な朝賀は建前として元旦のみとされているため、元旦以外は別に参列は強制されていないのだが、宣政殿は物見高い者たちや野次馬たちで溢れかえっていた。それもそのはず、これから入殿する二人は――


「茶州州牧紅秀麗様、及び茶州州尹鄭悠舜様、ご入殿でございます」


下吏の声が響く。そして全ての者の視線が正面扉を向き――


入ってきた二人に、誰もが息をのんだ。


(秀麗ちゃん、綺麗になったなぁ)


それは化粧のせいではなく、彼女の内面の成長がどうしようもなく外に現れた風で。春の頃のような少女のあどけなさはもうどこにもなかった。


包む静寂に、秀麗はハラハラしているのだろうなと微笑ましいものをみる視線を櫂兎は向けた。それから横に視線を向け――友の顔に、笑顔になる


(悠舜、やけに楽しそうだな)


それもそのはず、この場にいる者は、茶州の顔である彼女に今圧倒されている。それが彼は嬉しくないはずもない。


悠舜が膝をつけるように手を貸し、次いでそこより一歩前に進み出で、秀麗も正式な跪拝の礼をとる。両手を組み、頭をいっそう深く垂れ、声を発した。


「茶州州牧紅秀麗、及び茶州州尹鄭悠舜、ただいま罷りこしました」


そこまで見守ったところでもう心配いらないと、櫂兎は野次馬たちを抜け出した。


殿の外に出たところで息を深く吸う。本来各挨拶中に抜け出すなんて言語道断だろうが、皆秀麗らに釘付けで櫂兎に気付いてもいない。


(今は秀麗ちゃんは心配いらない、むしろ要るのは――)


そこまで考えたところで、しかし、自分が力になれることではないと小さく俯いて、それから朝廷を出る方向へ足を向けた。

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空中三回転半宙返り土下座
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