邵可と薔薇姫の婚姻を期に、俺は華蓮として後宮に入ることを決めた。珠翠もいずれ後宮に入ることが決まっているので、そのときに手助けしやすいように、だ。
そして知った、女の園はおそろしい。
「どうした放心したような顔して」
俺が女官姿でも事情を知っている瑤旋は驚かない、が、
「頼む、宰相付きの女官とかってできねえの?!」
殲華への愛が重くておどろおどろしいのだ、あの場所は。正に大奥。
そもそも、女官として働きはじめてすぐはよかった。仕事を教えてくれる先輩女官は5歳に後宮入りしたとかで大ベテランということもあり、分かりやすく的確に色々指摘してくれるのだ。ちなみに礼儀作法は褒められた。薔薇姫にスパルタ特訓されただけはある。彼女には振る舞いの心意義から叩き直されるので末恐ろしい
で、だ。問題はここから。
やっと仕事が軌道に乗り、あまり目立つこともなく、ヘマすることもなく。穏便に働いていたのを。
「あんのバカ殲華が何を思ったのか正々堂々真昼間に大目立ちで俺を訪ねやがったんだよおおお!!!」
夜ではなかったのが幸いして政略的な争いごとには巻き込まれることはなさげだが、お陰で女官たちの嫉妬の嵐、嵐、嵐である。
女のヒトって…コワい。嫉妬だけで平気に裁縫針を五寸釘にすり替えたり、お茶菓子を針山にしてだしてきたり、お茶に茶柱大量にたたせて水面見えなくするなんて!!………最後のは何か違う気もするが。目に見える形での、堂々とした嫌がらせ、拒絶。
なんか泣きそうだ。
そんな俺に瑤旋はというと
「ま、頑張れ。大丈夫だろうに。
それより外朝をそんなに歩き回るでないぞ。女官がこんなところ彷徨いていては不審この上ない」
「瑤旋は俺にあの嫉妬のドロドロした空間に早く帰れっていうんだ…!」
ぐすん
瑤旋はしかし呆れたように「忙しいから去るぞ」といってしまった。
仕方ないので俺も帰るとする。足取りは重い。
歩いていると、官吏らしき人が通るのを見かけて……それが若き日の旺季だと気付いてはっとする。
つい、見つめてしまう。
若いってのに苦労してそうだなあと思い至ったところで、現在自分の状況に気付き冷や汗が出る。
ここ、まだ外朝……ッ
取り敢えず誤魔化すようににこりと微笑み礼をして去る
どうか何も言いませんように……!
ちなみに旺季はというと。
こちらを見つめる女官に、疑問を抱き思考を巡らせていた。
……何故、こんなところに女官が。いや、それよりもこいつ、本当に女官か? 美しさなど夢幻の類やもしれん。
と、そこでその女性が優雅に礼をするので、反射的に礼を返す
礼儀作法も美しい、これが実在する人間なのだとしたら。
いや、人の外の類であったとしても。その天の羽衣を隠し、触れてはいけない人ならざる者の領域に手を伸ばしたくなる美しさではないか。
女官のいたところをみれば、誰のいた気配もない。
旺季は、疲れていて視た夢幻の類だと思うことにした。
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空中三回転半宙返り土下座
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bkm