櫂兎は早速、トロッコに乗り込み茶州へ向かった。目指すは凛のいる邸だ。
貴陽で出した祝言より、先についてしまったのはご愛嬌である。
「刃物を渡されたときは一体どういう意味なのかと……」
メスを間にして、二人の会話は進んでいた。
「いやぁ、すみません凛さん」
「いえ、事情分かればなんてことはない、むしろ興味深かったよ」
「わあ、というと、考えて下さるんですか?」
「もちろん、役に立てること嬉しく思う」
ちなみに凛さんに言った言葉は、「知り合いの医師が今度未来有望な若者たち相手に牛や豚使って人体切開術授けるんだけれど、それの練習用の道具にこういう感じの道具が欲しいんだ、できれば性能もっと良くして」だった。…嘘も真実やこれから起こること混ぜれば何とやらだ。
「じゃあ、俺はこの辺で失礼します」
「もうかい? 何ならまた滞在してくれてもいいのに」
「いや、新婚さんの邪魔するわけにはいかないから」
「……し、知ってたのか?」
顔を真っ赤にしている、予想外の反応にこちらが戸惑う。
「ええと、う、うん…おめでとう…ございます」
「あ、ありがとうございます…」
双方、たじろぎつつ、その話は一段落ついたのだった。
帰りのトロッコのなか、櫂兎は呟いた。
「悠舜とも会えばよかったな」
茶州で買った甘露茶に目線をうつしてから、脱力した状態で寝返りをうった。
まあ、また二月もすれば会えるだろう。その時は再会を、喜ぼう、
そしてこの甘露茶は、邵可とでも飲もうと思いながら。
「あーにうえー!」
「ああ、黎深、もう夕餉の時間かい」
「はいー、そうです!一緒に食べるのです、ふふ、ふふふ!」
「れ、黎深、何だか顔が崩れきっているよ」
「ふふ、ふふふふ〜!気のせいですよ、しかし櫂兎は何をしているんでしょうね、まぁ、暫くやることがあるからだなんて言うからこうやって今兄上と夕餉ご一緒できるんですけれどねー!」
黎深は至極嬉しそうに跳ねてから夕餉の準備された広間まで歩き出した。邵可は、小さく笑ってその背を追いかけた。
(原作寄り道編・終)
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