実のところ凛さんとは、個人的に文を交わす関係になっており、彼女の工学系の知識や発想に毎度驚かされ楽しまされている。その凛さんに、より性能いいオペグッズの設計を、少し早めにお願いしてしまおうと、そう思ったのだ。
「刃物は薄ければ薄いほど切れ味はいいんですよね」
「その分刃こぼれもしやすいがな。……しかし、人体切開用の刃物を貸してくれとは…一体何に使うつもりなんだと驚いたわい」
「ふへへ、あの憎き狸解剖のため、とでも言えば借りられましたか?」
「おう、貸した貸した。しかしあいつは解剖しても食えんよ」
「ですよね、まあ元から作る気はありませんが。人体切開での手術、って高度ですし、今後医療技術の発展とともに需要高まりそうなのに、今は全く認知度も出来る人も少ないですよね」
「まぁそうじゃな」
「で、ですね、俺、思ったんです。人体切開の医術に手を伸ばしにくい理由、道具が入手しづらいこともあるって」
「まあ、珍しいしのう」
葉医師は顎をぽりぽりと掻いた。
「で、工学得意な知人により使いやすい道具を設計して貰って量産すれば普及するかなぁ、なんて」
「ほう……で、本当のところはなんなんじゃ?」
「……嘘じゃないんですけれど」
「それだけでもないじゃろ」
櫂兎は深く溜息をついた。
「言いたくないと言ったら?」
「さて、どうしようかのー」
「時がくれば分かります、というならどうです」
葉医師はその言葉に片眉を上げた。
「つまり、人体切開の需要が出る、と?」
「さあ、どうでしょう?」
葉医師は、ふっと鼻で笑って、持っていた医療グッズらしき箱から一つ刃物を取り出した。
「まあ、よいわ。これは貸してやる。いいか、貸すだぞ?やらんからな。予備用じゃからいつ返してくれても構わん、が、必ず返せ」
「分かってますって」
紙に包まれたそれを櫂兎はそっと受け取った。
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bkm