「もう話はいいでしょう、時間は限られていますし、棚夏殿は一人しかいないのですから、そろそろ私へと相手交代しても」
「俺は一回休みが欲しいけどな」
玉は語り足りなそうに、惜しい顔していたが引き下がったようだった。
「さて」
そうして楊修は懐から一つの巻物を取り出した。
「…何だこれ」
「棚夏殿の吏部帰属を求める連名です」
「……おおう」
完全に予想外だ、皆暇じゃないのによくやるな。
手渡されて広げてみれば、伸びる伸びる。思ったより長かった、というかこれ黎深以外の吏部の人間全員分なんじゃないか。
「どれだけ…棚夏殿がいなくて皆荒れたか…棚夏殿は分かっていない!」
「そりゃ、見てねえものは知らないからな」
ぽりぽりと頭を掻く櫂兎に、苦渋の表情の楊修は膝で拳をつくった。
「知ってます、棚夏殿が戻る気ないことも、戻れないことも」
「うん」
「しかし、しかしですねぇ…!」
「うん、楊修、分かった、分かったから」
「分かってません、棚夏殿が思っているよりずっと、吏部は棚夏殿を必要としてるんです…ッ!」
「……ああ」
「駄目なものは駄目だと、分かります。今そんな我儘も通らないことも、分かります」
「……ごめん」
「許しません」
許してくれないのかよ。
「たまに、仕事で疲れた皆に、差し入れでもお願いしますよ」
「…ああ、その時は『雑用』くらいなら手伝っちゃおうかな」
「……たまに、ここに来ても?」
「もちろん、いいけど」
「わっ、私も来ます!」
玉は有無を言わさない勢いで約束とりつけてきた。まあ断る理由もないのでいいのだが。
「では次の時には是非茶菓子を、私は茶を淹れます」
「おお、楊修が淹れてくれるのか」
「はい、とっておきの牛乳茶を淹れますからね」
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