皆団欒での食事会も終わり、酒盛りを始める前に追い出しては一息ついた。
「ったく、明日も仕事あるのに酔い潰れたらまずいだろ…」
「あはは、君はないけれどね」
「うっせ」
そのまま借室の布団へとぼすんと飛び込む。
確実に変わった生活と、それが変わらずに続く日常へとなりゆくことに一抹の不安を抱えながら、櫂兎は思いまぶたを閉じた。
「棚夏殿おおぉっ!」
「わっ、玉、何でここに?!」
「あの上司が役に立っただなんて認めるのも癪ですが、棚夏殿がここにいるとききまして」
そうしてずい、と寄ってきた玉を後ろから押しのけて、前へ出る影があった。
「私も来ています」
「よ、楊修……」
「棚夏殿がいなくなってどれだけ吏部が大変だったか…」
ほとほと困りました、とずれた眼鏡を掛け直す楊修に櫂兎は苦笑いをする。
「俺が休暇とってたときと違わないだろ…」
「違いましたよ、大きく、たくさんの部分が」
「楊修その話は後にしてくれませんか、私の用件が先の約束でしょう?」
「……重要性は私だと思うんですけれどね」
はあ、と溜息つく楊修を全面で否定し、玉は櫂兎に押し寄った。
「いいえ、私です!棚夏殿棚夏殿」
「な、何だ…玉」
近づき過ぎて顔のどアップが目に悪いくらいだ。何となく、彼がこれだけ興奮し力んでいる理由が分かった気がした。
「隠し花菖蒲が復活ですよ!!!」
「言うと思った…」
「あれ、ご存知でしたか。ふふ、ふふふふ、ふふ、やりましたね」
「何がだ」
「第一作は数量限定ですよ!どんなコネがあっても取り置きはダメ…!これは徹夜で店の前に並ぶしか」
どこのゲームの発売前なんだか。
「何というか…うん、楽しそうでよかったな」
「棚夏殿どうしてそんなにやる気ないんですか!入手する気ないんですか?! 私、仕事休んで店舗前に並ぶ気でいるのに!!」
「えっ…うん、ええと、じゃあ頑張れ?でもあれだぞ、一般向けのはもう隠れてないんだろ、花菖蒲印」
「数量限定は今回のための特別様式です!隠れてますし、それは今までで一番の難易度だと噂に聞いています」
「……今知ったなぁ」
少なくとも俺のところにはそんな話はきていなかった。これはあれか?噂が勝手に一人歩きしたパターンか?それとも俺がまだ聞かされていないだけか?それともそれとも俺以外の人が考えてくれてる?…最後のはないな。
「そんなに期待されてるだなんて、俺頑張らないと」
「はい?」
「いーや、何でもないぞ、ま、手に入ったらみせてくれよ」
「もちろんですとも!一人でも多くの人にお披露目しなければ」
ただならない使命感抱いているようで、何というか、もう、お熱かった。
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bkm