片付けが終わった頃にはもう日も暮れ、大学芋が出来上がる頃には邵可も帰ってきていた。
「おや、片付けしてくれたのかい」
「邸から荷物持ってきたついでにな」
そういえば邸から出てきたときの戸締りした記憶がない。
まぁ、盗られて困るものも特にないし、あの邸の周りをうろつく物好きは少ないので大丈夫だろうが。
「しかし一日あっという間だった。何か新鮮」
もともと、瑤旋と共に茶州へ出向く前は邵可の食事の世話はほぼ俺がしていたようなものだったので、以前の生活に戻ったといえば戻ったのだが、当時朝廷へ出仕していたのに比べ、今は完全に邸にこもりっきりなので、大きな違和感があった。
「自宅謹慎なわけじゃないんだから、出仕はしたらどうだい?」
「うーん、でもさ、すること絶対ないじゃん。冗官室で一日中ぼーっとしてるんなら邵可んちでぼーっとすること選ぶなぁ」
「ただの引きこもりじゃないか」
「よく分かってるじゃないか」
「……」
「……はぁ」
「あ、溜息ついたな?呆れたな?! そんな奴に食わせる大学芋はねぇ!」
出来上がった大学芋をのせた皿を、櫂兎は邵可から引き離したが、それをお構いなしに邵可は腕をのばし大学芋を摘まんだ。
「いただくよ」
「……聞く耳持てよ」
「耳で聞かないで何処で聞くんだい?ちゃんと私は持ってるよ」
「ほう、そのくせ話が通じないとは、原因は耳じゃなく頭か?」
その問いには答えず、邵可は摘まんだ大学芋を口にいれた。
「うん、美味しい。もうちょっと甘い方が好みかも」
(都合のいいことしかきかないとは、いい根性だ)
櫂兎は小さな溜息をついて、大学芋ののった皿を机に置いた。
「鳳珠、行くぞ」
「……何処へだ」
「馬鹿者、決まっておろうが!櫂兎の邸へだ、邸!」
昨日とは打って変わって威勢がいい。しかし一人で行けないのか、こいつは。
呆れた顔の鳳珠を気にも留めず、黎深はズカズカと櫂兎の邸へと向かいだす。それをみてついて来いということか、と鳳珠は肩を落とした。
それでも黎深に付き合うのは、鳳珠の人のよさが伺える。
再度櫂兎の邸に来た二人は、門が開いていることにほっとした。流石に早い時間、まだ戸締りはしていないらしい。
しかし大きな邸であるのに、家人の一人もいない。断る相手がいないため、無断の失礼も承知で邸へ踏み込んだ。
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bkm