原作寄り道編 13
冗官処分の理由を宣言し回ってから邸に帰った櫂兎は、まっすぐ寝台へ向かってはその上へとダイブした。ぼふんと跳ねた寝台の上へ大の字になる。


(なんだか色々疲れた……)


そうして櫂兎は、もそもそと布団に包まりはじめた。


(……別に、吏部に心残りなんてねーし、黎深思い出してくんねえのに拗ねてなんかねーし、落ち込んでなんかねーし)


その言葉には全く説得力がない。
そのまま不貞寝して暫く経った頃、櫂兎へと降る声があった。


「若いもんが昼間っから寝てんじゃねーよ、働け、そして稼げ」


櫂兎の冗官処分をきき、邸まできた声の主――貘馬木梦須はそうして太巻き状態の櫂兎をつついた。


「……生憎有難いことにお金には困ってないんで」


もそもそと櫂兎は頭半部だけ出して答えてはまた潜り込む。
それから、何故彼がここにいるのかという疑問に至り、がばりと身を起こした。


「何で貘馬木殿が!っていうかどうでもいいから帰って下さい!」

「お前が追い出してくれたおかげで、なけなしの金で宿借りた貘馬木さんは茶州まで帰る手段がねーの」


帰りたくても帰れねーよ、と貘馬木はそばにあった卓子を叩いた


「……ああ、そういや貴方、地下通路通って来てたんでしたね」


この貘馬木殿、茶州でおとなしくしているとおもっていたら、なんと茶本邸から俺んちに繋がる地下通路見つけて、歩きで貴陽まで来ていたらしいのだ。彼が貴陽に着いたのは、俺がトロッコで邸についた後、札を使い寝込んで三日目。気分最悪機嫌の悪さ最高潮だった俺は、怖いもの知らずにも、あろうことかこの貘馬木殿を邸から追い出し、二度と来るなと言ったのだった。


(今日までは律儀にその言葉守ってくれてたんだよなぁ…うわぁ、何というか、うわー、意外)


「この前は口悪く追い出して申し訳ありませんでした。トロッコ使っていいですからさっさと茶州へ御帰り下さい」


それでも無愛想になってしまうのは、彼相手にするときの癖というかなんというか。


「えー、可愛げねえ、ひでぇ。折角冗官処分中の元部下を冷やか…励ましにきてやったのにー」

「冷やかしですね、尚更帰って下さい」


櫂兎は帰るよう促したが、貘馬木は帰ることを渋り、結局彼が帰ること承諾したのは話をはじめて二刻半ほど経った頃だった。
貘馬木は荷物をまとめてくると一度邸を出て行った。夕方頃にまたくるらしい。


ちなみに承諾させるために、その時彼とどんな話をしてどんな条件交わしたかは――秘密だ。少なくとも俺から全てを語る機会はないだろう。


「……思い出したくもないしな」


やっぱり、俺は貘馬木殿が苦手だと思う。

櫂兎はゆったりと身を起こした。それから夕餉の準備に取り掛かる。準備は二人分――ああ、誤解されるのも癪なのでこれだけは言っておこう。これは俺の親切でも何でもなく、いわゆる彼からだされた条件のうちの一つというやつだ。めんどくさい人である。


「んー、出汁はこれでいいとして……葱あったかな」


夕餉は俺が食べたいがために和食だ。
味噌汁には葱が欲しいところだが、茶州から帰ってきて買い出し行ってなかったがために、生野菜系は全くなかった。


「……買いに行くか」


お得意先の八百屋のおばちゃんの顔でも久々に見に行こう。

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空中三回転半宙返り土下座
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