原作寄り道編 10
櫂兎の冗官処分に、吏部は揺れた。


「何で棚夏殿が?」

「意味分からねぇよ」

「今回の仕事溜まってたの終わらせたの、尚書が気に入らなかっただけとか?」

「あり得ない…」


理由も分からず、処置だけきいた者達がさざめきたつのと裏腹に、楊修はその理由を冷静に分析しては溜息ついた。


(『こっち全然大丈夫』、ですか。)


彼が仕事終えた者は定時前でも帰ってよしと宣言したとき、漏らした言葉。
つまりあちら、中央机上の仕事の割り振り、吏部へ与えられた仕事の個人への割り振り関与は駄目ということだったのだろう。

もしやと思い、春、彼が官位下げられたときの書を探し見てみれば、割り振り関与、その一つだけが彼の官位の権利として喪われていた。これで間違いない。しかしそれにしては、結果論とはいえ吏部に溜まった仕事処理し得るのに一役も二役も買った彼が冗官とは、処分が重すぎる。


(それには……完全に私情挟んでるんでしょうねえ)


でないと、櫂兎があれほど取り乱し、それこそ怒鳴るなんて真似するわけない。


黎深が尚書室の扉を閉め、完全に引きこもったのを確認した楊修は、吏部全体へとその理由の憶測を話しはじめた。声は尚書室へと聴こえない程度に、だ。


聴き終えた官吏らからも、「それでも冗官はおかしい」と話あがる。


「だってさ、棚夏殿のしたこと悪いことだとは思えねえじゃん。決まりは決まりだとしても、この仕打ちは酷いと思う」

「ですよね…。あっ、いっそ今の状況みてた私達全員が、『棚夏殿は悪くない』って、『棚夏殿は一人で吏部の溜まった仕事終わらせた』って言うのどうです?」

「それって共は……」

「それいいじゃん!」


紡ぎかけた楊修の言葉は遮られた。


「尚書がいくら冗官処分の理由言っても、俺ら全員が事実と違うって言えば、尚書が間違ってると思われるだろーし」

「今回のこと、吏部以外の奴は知らないだろ? 先に帰った奴らにも伝えたら完璧じゃん」


全員共犯、いわゆるオリエント急行式という奴だ。


(……共犯だなんて、それが分かればどうなることやら)


しかし楊修も、今回の尚書には不満漏らさずには居られない。櫂兎の冗官はそれほどまでに予想外だったのだ。


(ああ…でも嘘はいけませんし)


証言で嘘をつくことは、後々になって厄介を呼ぶのだ。


その楊修の考えを読み取ったように誰かが言葉を発した


「でも、嘘ってばれたら…」

「それで俺らまで処分受けたりは嫌だし、棚夏殿もそれは望まないだろうしな……」


誰もが考え込み、唸る。


「黙秘」


気付けば言葉が楊修の口をついていた。


「黙秘を貫くのはどうでしょう。黙り、話さなければいいんです。
いくら尚書とはいえ、一人の官吏を冗官処分とするにはきちんとした理由がいります。そして尚書が述べた理由にも裏付けが居る。しかし、誰もが話さなければ、尚書の言葉は真実とも嘘ともとれない、つまり確かな理由にはなり得ません。
ついでに『棚夏殿のおかげで吏部の溜まってた仕事がなくなった』とだけ話をすれば、嘘をつかず相手が勝手に棚夏殿が一人で仕事終わらせたと思います」


それはもう、彼が一人で終わらせると自分が思い込んだように。
誰もが後ろ暗さなく、かつ棚夏殿が不処分もありえます、と楊修は締めくくる。


吏部全体ともなれば、脅迫してくる者もよっぽどの馬鹿でない限りいないだろう。


皆、それに様々な色よい反応を示し、話はそれでまとまった。

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