原作寄り道編 05
それぞれが今日中に机上の書類を無くそうと奮闘しはじめた頃、櫂兎はまた悩ましげな顔で顎に手をやった。


「……棚夏殿?」


楊修の不安げな声になんでもないと櫂兎は答え、それでも中央机の上の書類たちをじっと見つめた。







ああして説明したものの、実際三日でやってしまうのは厳しい。確かに話した内容のそれで、吏部内での仕事の受け渡し後の処理はやりやすくなるし、査定や何やの人材見極めなら、気にするところに個人差でなくて公平にみられるから、一人の人材への判断に割く人数減らせる。しかし、それでも三日では精々一月溜まった仕事消化が関の山だ。


(それを約三月分終わらせようとすれば…やっぱ『今じゃひとつ難しい条件』を俺が満たすしか、ねえよな)


黎深が尚書となり仕事しなかった初め頃。それでも吏部は、それなりに機能していた。別にそれは吏部に回る仕事の量が少ないわけでもなく、皆『与えられた仕事』をこなしていたからだ。


――『与えられた仕事』。与えたのは、誰か。
当時、吏部の任された仕事を個人へと割り振っていた者、それは、貘馬木殿だった。


調べてみれば黎深が尚書について半月ほどで彼はパタリとそれをやめているようだった。彼のことだから、黎深が仕事しない気なのを察したのだと思う。けれど彼の下で働いていたとき、俺も目の当たりにした『それ』。――仕事を適材適所へ適量振る絶妙な采配の腕、それが、吏部内全体に適応されていたとすると、効率よく仕事処理され吏部が機能していたことにも頷ける。


これは仮説だが、黎深が尚書になる前――それも随分前、彼が今俺の位置についた頃から、彼は吏部内の仕事の割り振りをしていたんじゃなかろうか。
彼のことだからそうして吏部内の人材見極め、有能な者が確実に上にあがれるよう、その者に向いた仕事を与えたり、最低限吏部を機能させていた、そんな気がする。


彼は俺が吏部に入った頃から古株で長年地位変わってないと言われていたから、きっと彼がその地位就いた当時じゃ朝廷内は腐りきってて不条理まかり通ってた。その中で彼は、少ない『あるべき官吏の姿』の一人だったのだと、思う。


今となっては、それは推測の妄想でしかなくて確かめようもないのだけれど。


(もしそうだったらある意味吏部を掌握してるよなー、貘馬木殿)


吏部が機能するもしないも、彼のさじ加減なのだ。中の上程度の官位で尚書クラスの影響力とは…おそろしい。


そして、今の大問題が、春に中の中の下あたりまで地位下げられた俺。仕事や官名は変わってないから気付かなかったが、下がったことで権利がひとつ減っていた。それもまた、吏部に任された仕事について関与できるとかいう権利で。
つまり、今の俺に仕事の割り振りは、出来ない。の、だけれど――


「こんなことになるなら、もうちょっとあのとき抗議しときゃよかった」


もう後戻りする気も、宣言撤回する気もない。
今考えるのは、目の前にある仕事の山を全て三日で終わらせること、それだけだ。


櫂兎は中央机上の書類の束を手にとった。

5 / 41
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -