漆黒の月の宴 36
「でもそれはあれだ、彰がこれだけ女装似合うんだから、凛も女装似合う…あれ?」

「……もう突っ込まないぞ」


変に煌びやかなのを好まないだけで、別段凛は着飾ること嫌いなわけではないのだが、仕事人間の柄が出るのだろう。女性らしさは忘れたつもりはないのだが、いかんせん色に欠けるのだ。


そんな凛は、再度撫でた貘馬木が、ボソリと零す不意打ちの言葉で赤くなる羽目になる。


「んー、でもそうやって悶々と悩むところは女の子らしくて可愛い」







「そういえば、近いうちに櫂兎が戻るらしい」


茶州からの州牧就任式も無事済んだという報せも届き、結婚の勧めに逃げられるだけ逃げる意志を宣言した劉輝は、話題を変えるようにそう言った。


「それはそれは…絳攸、もう迷わずに済むね」


あたたかい目を向ける楸瑛に絳攸は真っ赤になる。


「迷ってなんてないっ!」


そうして吏部に戻ろうと執務室を出ていった彼の辿り着いたのは、工部だった。







数日後に櫂兎が休暇から吏部に復帰するとの報せに、吏部の官吏らは舞い上がった。
それは積み重なる仕事が消えることへではない、彼らもまた、吏部尚書と侍郎の関係が数ヶ月前とはどこか違うことに気付いていた。そして、吏部侍郎付きの彼が戻れば、きっと以前の吏部に戻ると――


「でも変わることはないんでしょうね」


一人楊修は呟いた。変わったとしても、自分の期待する方向へ変わることはないと確信していた。


彼は、棚夏櫂兎はあれで甘く見えて酷く厳しい。絳攸に手掛かりを与えるとしても、彼自身が気付かない限り手は絶対に差し伸べない。
それに、尚書と侍郎の関係は変わってなどいない、元から彼らは、『紅黎深とそのお守り役』だった。そして、変わっていないことが問題だった。


「私はもう決めましたよ、棚夏殿」


気付けないはずないのに、見て見ぬ振りするなら、見ざるを得ない状況にしてしまえばいい。
それでも気付かない振りを続けたなら、それはそれで期待外れだったというだけだ。
気付いてすらいないなんて、はなから問題にすらならない。


「……あぁ、でも」


彼にも何やら、尚書と事情があったのだった。彼が休暇中は甘煎餅の妖精がいないことから、尚書もいい加減、愛しの甘煎餅の妖精の正体が櫂兎であることに気付けと思うのだが。
尚書は尚書で、彼を毛嫌いしている節がある。その嫌われた態度を向けられて尚、妖精の真似事を続ける櫂兎のことが、楊修にはどうも分からなかった。


(……要するに、皆不器用といったところでしょうかね)


楊修は瞠目した。



(漆黒の月の宴・終)


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空中三回転半宙返り土下座
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