野の虫たちの幻想的な調べのなか、パチパチとはぜる火は辺りを照らす。頭上には満天の星。
寝ていたと思っていれば、パチリといきなり目を開けた龍蓮に、火の番をしていた櫂兎は少し驚いて、それから口元緩める。
龍蓮は目覚めるなり彼珍しくふわりと笑った後、少し困ったような顔をしたのだ。そしてぴょロろろリ〜と、いきなり笛を吹きだす。それは、喜びに溢れるような旋律でありながら、どこかさみしさ漂う音色。それも曲終わらぬうちにふっと止めては、笛を置きざま話しだす。
「心の友らは、『藍龍蓮』と知って帰れと言葉かけた」
「……うん」
「あんなに優しい言葉を、自分は知らない」
「うん」
「……こんなに喜ばしいことは、今まで知らなかった」
ふぃっ、と龍蓮は星空を見上げた。その視線に沿うようにパチリ、とはぜた火花が宙に消えた。
「龍蓮にとって秀麗ちゃんや影月くんが心の友であるように、秀麗ちゃんや影月くんにとっても龍蓮は心の友なんだ」
「……そう、だな」
龍蓮は目を閉じ、頬を緩めた。
「友とは、よいものだ」
それからまた寝息がきこえてくるのに、そう時間はかからなかった。
英姫の閉じ込められた室の隅に、怒られること覚悟で瑤旋はそろっと姿を現した。その瑤旋の、五十年ほど若返った顔にも英姫は全く動じず、ふん、と鼻を鳴らす。
「茶州まで一人でよう来んとはどういうことじゃこの腐れ男。それでよくもわたくしの前にその面晒せたものじゃ」
「……」
(出会い頭に殴られることはなかったか……)
罵声浴びされながらも、少しホッとした瑤旋は、全てにおりた錠を見渡し言った。
「……英姫、君が望むなら、ここからすぐに出してあげられるのだが」
「無用じゃこの唐変木、狐狸妖怪、人外魔境の若作りめ。誰がお前なんぞの手を借りるか」
英姫はズバズバと言ってのけた。瑤旋は首をすくめて後ずさった。昔も今もこれからも、自分を一歩後退させるという偉業を成し遂げられるのは彼女だけだろう。……しかし、若作りという言葉だけはいただけなかった。一番その言葉似合うのは今回茶州まで同行してくれた彼に決まっている。――本人が頑なに自分を爺と認めたがらないから、あれは若作りではないと言い張るだろうが。
「一つ訊く。お前が一年半もガメ続けた茶家当主指輪は今何処にあるのじゃ?」
「……ガメ……だ、だいぶ口が悪くなったな英姫。いや、指輪は近いうちにここへ戻る」
「そうか。それだけ聞ければもう用なしじゃ。とっとと消え失せい」
「英姫……」
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bkm