「しかし、我が笛の音に去らぬとは。その馬は、他の風流介さぬ人間らよりも余程見込みがあるな」
確かにポテトは龍蓮の笛も平気そうな顔で聴き流していた。器がでかい彼女である。しかし濡れた人間は乗せてくれないあたり繊細さも有しているのだろうか?
「借り馬なんだけど、とっても賢いぞ」
たまに馬鹿なところも可愛い今回の旅の供だ。
「ほう…して我が心の片割れよ、それはまことに風流な格好だな!」
「あ、ありがとう?」
「土の香りに混ざって森の木々の香りがする、元は人の手によるものだというのに、その跡形もなく彩られている」
それ、もしかしなくても斜面擦ってくたびれて、川の水に裾濡れたのズボンのこと言ってるのかな?!
龍蓮は、うんうんと何故か一人話完結した風に頷いてそれから言った。
「だが風邪をひくのも困りものだ、この外衣を貸してやる」
そうして自身の外衣を外し、ばさりと櫂兎に羽織らせた。これは櫂兎も単純に喜ぶ。
「わー!ありがとー!」
しかし次の龍蓮の行動に固まった。
「ちょ、ま、何すんですか龍蓮さん」
他人行儀な敬語も出るのは不可抗力、櫂兎のズボンずらそうとしだした龍蓮を彼は必死に抑えていた。
「濡れた衣を着たままだと、風邪をひきやすいと我が心の片割れがいつぞやに言っていたではないか」
「うわーわー、だけど脱がさないで脱がさないで、ちょっとまって、いーやー! お婿に行けなくなるー!」
「そのときはこの藍龍蓮、責任もって我が心の片割れを貰ってやる」
だから大丈夫だ、といけしゃあしゃあと言ってのけた龍蓮に櫂兎は頬引きつらせた。
取り敢えずその力強い手をぐいと押し返し、腕でバツ印作った。
「人の嫌がってることはするもんじゃないぞ。心配してくれるのは嬉しいけど、いきなり脱がすとか楸瑛と同類になっちまう」
龍蓮もその言葉に、愚兄その四はいただけないと伸ばした手をやめた。
「寒くはないか? そうだ、羽を胸元に詰めるのはどうだ」
尚心配してくれていると分かる、しかし提案することがどうにも的外れな彼に櫂兎は優しげな表情づくる。
「夏なんだ、涼しくて丁度いいくらいかな」
まとわりつく布は気持ち悪いけどな、と櫂兎は笑った。
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