漆黒の月の宴 14
「……二号、帰ってこないなー、ポテト」


野宿に火を焚きながら、櫂兎はポテトにぽつりと言葉を漏らした。一方、二号にずっとビクついていたポテトは、離れられて肩の荷が下りたとでもいう風な顔でふんふんと草を食べていた。


「取り敢えず琥漣の凛さんに挨拶はしないといけないし……はぁ」


――明日、夜が明けたらここを離れよう。きっと二号は自然に帰ったんだ……。
櫂兎は水筒の水を火にかけ、眠りについた。








翌日、何となく笛の音が聴こえた気がして目を覚ませた櫂兎は、大きな欠伸をひとつしてから馬に乗った。


「ゆくぞポテト、地の果てまで!」


どこか寝ぼけていた。




琥漣方向にすすんでいるうちに、櫂兎の意識もだんだんはっきり冴えてくる。覚醒した瞬間、自分の姿勢に口をあんぐり開けた。


「よくもまあ……尻尾側向いてて落ちなかったな、俺」


ある意味寝ぼけていたからこそできた芸当だった。と、その脇を黒い物体が素早く通り抜けた。おもわず進行方向を振り向く


「二号?」


櫂兎は黒い物体の正体をさぐるべく(といっても二号自体が正体不明なのだが)、それを追い掛ける。その黒い物体は跳んだり跳ねたりを繰り返す。長い距離を追いかけたところで、櫂兎は薄々気付きはじめる。


(……こいつ、二号じゃ、ない)


動きが二号とは違って機敏、かつ自然の理に反するような動きをするのだ。人あらざるものに自然の理がどうこうと言うのも変な話だったが、何というかこう、不自然極まりない。


と、不意に黒い物体は姿を消した。


「えっ」


そして足元の浮遊感。そのまま斜面をずるずると滑りだした。


「むーぎゃーぁぁああああ!」


叫びながら勢いを殺そうと必死になっていたところで、下を流れていたらしい川にばちゃりとおちた。自然、身体も止まる。


浅い川でよかった。腰から上は無事だ。『さいうんこくげんさく』も濡れずに済んだ。足元べちゃべちゃだけど、着替えまで濡れちゃったけど!


そこに何処の道通ったかは知らないが、ポテトがパカポコ優雅に現れた。


「お前……」


俺のズボン危機を察して、来てくれたのか。


そうして鐙に足を引っ掛けようとすると、ポテトは嫌がるように逃げた。


「……あのー、ポテトさん? 乗せて下さ〜い」


つんとそっぽ向いては、乗せてくれそうになかった。
これはあれか、やっぱ濡れた人間乗せるの嫌なんだな。くそう、歩きだと。


そうしてしばらくポテトと並び、櫂兎は琥漣へ向かい歩いていた。不意にまた、笛の音が聴こえた気がして櫂兎が足を止める。その音は、今度は気のせいなどではなく、段々こちらに近付いていた。その音に伴って目の前の森の木々から、一斉に鳥が飛び立ったり落っこちたりしたのが、見えた。それも、目の前の森開けたところで終わる。


「おお、久しぶりだな我が心の片割れよ!」

「ああ、龍蓮久し振り」


櫂兎はそうして濡れた荷物を片手に笑った。



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空中三回転半宙返り土下座
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