漆黒の月の宴 13
キョウが寝たのを確認した櫂兎はそっと布団を抜け出し、まだ灯りつく居間に行く。


「あらあら、どうしました棚夏さん」

「少し伺いたいことがありまして」


櫂兎はそっと地図広げる。懐からてんてんと二号が転がった。


「ここの山、行きたいと思うんですけれど入り口とかって」

「特にはありませんけれど…そうですね、強いて言えばここ、でしょうか」


彼女が指差したのは、ちょうど二号の転がった先。


「ここからぐるりと回ると、こちら側に出るようになってます」

「ふむ…穴が掘ってある、とかそういう道はまだ無いんですね」


まだ無い、という形容に少し首を傾げつつ、彼女は頷いた。


「でもこの山、私達が入ることなんて滅多にありませんよ?」

「そうですか、それは良かった。冬が終わるまで、皆さん近付かないようにだけ、伝言お願いします」






翌朝、キョウが目覚めた時、隣に櫂兎はいなかった。


「かーちゃんっ!棚夏さんはぁー?」

「今朝早くに出ていかれたよ、あんたにこれ渡してくれだって」


そうして封のされた手紙を渡される。


「……俺文字読めねえよ、棚夏さん」


その可能性に櫂兎が気づいたのは、キョウの家を出て、山に着いて暫く経ってからだった。


「……まあ、それはそれで問題ない、かな」


村の識字率は極めて低い、つまり彼が手紙の内容を知るのは文字を知る外部の者が訪れたとき。怪しい宗教団体には近付かないだろうから、彼が手紙の内容を知るタイミングはきっと、


「って、二号お前またどっか跳ねていって…暗くならないうちに帰ってこいよー」


二号はぴょこんぴょこんと跳ねてから、草むらへ消えた。櫂兎は腕まくりした後、ポテトの背にある紐や木材を組みはじめる。森に登る道に仕掛けを作るのだ。山を拠点にするために、俺と同じく見当付けてここの山道を通るであろう、邪仙教団体に向けたとっておきの仕掛けを――。






琥漣に到着した秀麗一行は、凛からとは別に渡された手紙に目を点にした。


「何でこんなところに櫂兎さんのお手紙が?!」


手紙を見つけ叫んだ秀麗に、彰は淡々と半月ほど前から姉の邸に彼が滞在していたことを告げた。ひょいと手紙をとって燕青はそれを広げ、呻いた。


「うっわー、マジかよ……うん、文面からしてこりゃ櫂兎だなー」


静蘭は覗き込んで、顔を顰めた。


「『茶州琥漣までお疲れ様。そういや甘露茶は美味しかった? 丸いものを落とすと吉、酒の飲み過ぎには注意してな』、ですかー」


影月が顎に手をあてる。燕青は笑った


「後になりゃ意味分かるんだけどなー、櫂兎の手紙って占いっぽくてよくわかんねえ」


彰は呆れた顔をした。


「受け取り手に意味が分からないなんて、手紙の意味がないではないですか。それとも謎掛けが趣味なんですか、皆さんのお話しのその人は」

「そういうわけじゃないんだけどなー」

「たまに、不思議なことおっしゃるんです」

「しかも全部当たってますし」

「……」


彰は皆の話す「彼」が貘馬木に似ているような気がした。「彼」がきいたら心外だと言うだろう、しかしその直感は当たっている。所謂規格外、なのだ。


「…………っていうか、櫂兎って俺らが貴陽出た後に続いて貴陽出たんだろ、何時の間に抜かされてんだ」

「金華に入るまで時間かかったし、そのあたりかしら」


唸ったところで、まさか地下通路が茶家本邸に繋がっており、関所を通らず一週間ほどで貴陽から茶州に着くなんて話、誰も考えつくはずなかった。

13 / 37
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -