足音がして、それが邵可だと分かる。
「おかえり」
「きたか。結論はでたのか?」
「……ほぼね。その前に、訊きたいことがある」
薔薇姫は皮肉っぽく眉を上げた
「……で? 訊きたいこととはなんじゃ」
「前にここにきた女兇手がいただろう?」
「ああ……そなた、あの綺麗な目をした娘の若いツバメというやつか」
「師匠と弟子!!」
くわっと訂正する邵可にくすくす笑ってしまう。睨まれて笑うのをやめたが。
「あのひとが君の鎖を解けなかったのは、なぜだ?」
「あの娘には何も落ち度はない。この鎖を解くのはただの人間には確かに至難だが、その娘にはできたし、今のそなたにもできる。"干將"と"莫邪"があれば、この鎖を壊せる。だが、できてもやれはせぬ。そなたにも、櫂兎にも、この鎖はとけはしない」
「……理由は?」
「引き換えにするものが大きすぎるからじゃ」
できてもやれない。理由はわかりに分かる。姫連れ出すのは世界と交換なんて、ハイリスク小リターンだろう。っていうか損しかしてない気がする。
「『セカイ』?」
薔薇姫が目を丸くする
「『セカイ』って世界? で、いいんだな?」
「……そうじゃ。文字通りの意味じゃ。この鎖を断ち切れば、この世界が壊れる」
邵可はそれに素っ気ないほど簡潔に「わかった」と答えた。
その答えに薔薇姫は放心しかけたような顔をした。そして俺の表情をみて、またぎょっとする。
俺まで邵可の答えに「まーそうだよな〜」とでもいうような顔をしていたせいだろう。
そしてこれらは彼女にとっては今まで知っていた人間とは何かが違うと気付かせるのに充分なはずだ。
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