漆黒の月の宴 02
「前の手紙でなんて、今までの茶州尹生活を休暇呼ばわりですよ」

「いーじゃん、俺とお前と組んだら最強、お互い楽できるってことだろ」

「冗談じゃありませんよ、燕青が私を苦労させなかった時がありましたか?」

「げほごほんっ…あ、あははー」


素直に頷けず、心当たりのありすぎる燕青は茶を濁す。と、そこに新州牧二人がひょっこりやってきた。


「取り敢えず持ってきたんですけれど…って、もうほとんど終わってる?!」


金華の事後処理をものの見事にやってみせ、悠舜の有能振りを見せつけられた秀麗は目を見開いた。自分より高く積まれた書類に視界遮られていた影月も、ひょっこり顔を出しては、仕事の進み具合に驚いた。そんな二人をみて悠舜はくすりと笑う。


(私でも櫂兎の速度には負けますけどねぇ…ふふっ、お二人が彼の仕事具合みたら驚きすぎて目が点になりすぎて白眼になったり……は、流石にしないですかね。でもいい反応してくれそうで、是非ともみてみたいものです)


「その書類はそちらにお願いします。取り敢えずここにあった分は言っても全体の百分の一にも満ちませんでしょうから……分担して処理してしまいませんと」


執政室にはあとどれくらいありましたかと悠舜が問うのに、秀麗と影月は少し言い淀んでからたくさんと言った。あまりにそのままの言い方に悠舜は噴き出す。


「執政室に移動した方がいいかもしれませんね。持ってきていただいた分が終わったらそうしましょう」








時は遡る。霄太師が肩に乗るのをやめ、指輪を持ち行ってしまってから暫くして、櫂兎は凛にまた戻るとだけ告げ琥漣を出た。馬はツケにしてもらって借りた。程立たずして、州都琥漣全面封鎖を風の知らせできく。


「と、なると今頃悠舜は金華か」


手紙がきちんと届いていればいいが。いやまあ届いていなくとも、彼は来年の朝賀に出るのだろうから、きっと貴陽で会えるだろうが。


(漆黒に俺の出番は無い、か…)


そうして櫂兎は琥漣できいていた道を馬駆けさせる。山を越えることになる、どれくらい掛かるだろうか。


(だいたい、どれだけ正しく話を伝え、かつ、後あとややこしくならないか、だよなぁ)


疾走する馬の上では流石に『さいうんこくげんさく』は開けない。ただ脳をフル稼働させ記憶を必死に引き出しては考える。彼が目指すは――石榮村。


そんな虫がどうだの割腹して摘出手術云々は言われたところで、実際目の前で起こらないと信じられるものでもない。邪仙教が投げやりでテキトーなこと言い出す前に、簡潔に、水を煮沸することを習慣化してもらえれば、助かる命も増えるだろう。


そこで櫂兎はふっと空を見る。馬は減速し、止まる
もし、被害がそれで大きくならなかったとしたら、秀麗が駆けずり回ったとして、被害規模小さく医師らの派遣必要ないと判断されたら。――いや、


「たとえそれでも、動いてもらわなきゃ困る。だいたい葉医師普段ヤブ医者なんだから仕事して貰わないと」


その時は、個人で医師ら雇って必要物手配してでも、やってやろうじゃないか。……まあ、そうせずとも秀麗なら、規模人数関係なく、やってくれる気しかしないのだが。


小さく笑ってから、櫂兎はまた馬を走らせはじめた。

2 / 37
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -