櫂兎は馬からおりては、広げた地図に石榮村を含む、池の水を冬場利用することになる村々に記し付けた。
「明日には最初の村着きそう、か。頑張ってくれなー、ポテト」
勝手に名付けた馬を撫でて、近くの気に手綱を括りつける。今日は野宿になりそうだ。
ポテトと呼ばれた彼女――勝手に雌だと思っている――は、それが自分の名と分かってか分からまいか、少し不機嫌そうに小さくいなないた。
「……え、ポテト嫌なの?」
ポテトはそっぽを向いたまま、反応しない。
「……ええと、さつまいも、干した奴食べる?」
差し出した芋には見向きもしてくれなかった。試しにとうもろこしを出したら美味しそうに食べた。
「………そっか、芋は嫌か、嫌なんだな…」
櫂兎は寂しそうに、もそもそと干し芋を食べた。
元々山中の村、閉鎖的な村がぽつぽつとあるだけあって、外部の人間は怪しまれても仕方がない。
…………と、思っていたのだが
「櫂兎君、そっちの柱ぁ
頼むよ」
「はいよ、おっちゃん」
「いやー、若もんは元気でええのぉ、手ぇ借りられってほんに助かるべ」
「あんままじゃと床しずんじまあきゃあにゃ」
怪しまれ度零どころか、とてつもなく友好的。あまつさえ俺は冬に向けての耐雪措置に駆り出されていた。
(あ、あれ……あれれ、思ってたのとなんか違う…)
櫂兎はせっせと柱抑え釘打ち付けながら、こうなった原因に想い巡らせた――
「はじめの村、発見!」
馬をかなりとばしたせいか、予定より随分と早くはじめの村に到着した。
「……ええと、まず印象よく、誠実に」
そわそわ辺りを歩き、指折り確認してはガッツポーズし、櫂兎は馬を降りた。
問題は、その後だった。櫂兎が勇み訪れた村の入り口で、お爺さんが倒れ呻いていたのだ。
「ふぁぁあ、わしゃもぉ、ダメじゃあ…ああ婆さん、婆さんが見える」
「えええええ?! だっ、大丈夫ですか!? 救急車救急車119ッッってそんなのないじゃねえか俺は馬鹿かっ!うわあああああ!この中にお医者様あああ!」
大声だしては騒がしくするのに、一体何事だと家から村人達が出てくる。
「長老!」
ええこのお爺さん長老なの!?なんて思っている暇もなく、出てきた男衆数人でお爺さんを近くの家に運び込む。
「うっ……うううっ」
運び寝かしたところで、一段と大きく長老は呻き、それからばたりと力尽きたように手垂れた。
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