「そういや凛さん、仕事一段落ついたの?帰ってこられるなんて」
「いや、明日には戻らないとならないよ。金華からちょっと気になる報告をうけたから、邸に手紙を置きに少しね」
「手紙?」
「新州牧への手紙だよ」
これくらいのね、と凛は両手で幅を表す。一般の手紙と比べれば、随分と分厚い。
「……なるほど、確かにそうだった」
「ん?」
顎に手をあてぽつりと漏らした櫂兎の言葉に凛は不思議そうな顔をする。
「いやなんでも。俺も何か書こうかな」
そういえば、新州牧の片方である紅姫の叔父の紹介で、彼は全商連に取り次いだのだった。新州牧たちとも案外知り合いなのかもしれない。
「紙とか筆とか、必要なものはある? 言ってくれれば揃えて貸すよ」
凛は長い髪揺らし言った。
「ありがとう、それじゃ一式借りたいな」
「全部合わせて銅八十両になります」
「お金とるの!?」
商人抜かりないなとほお引きつらせた櫂兎に凛は噴き出す。
「あはは、冗談。あとで持ってくるよう言っておくよ」
お代はとらないよ、お客様のもてなしのひとつだからねと凛は言った。そして窓の外に目を向ける。つられて櫂兎も外をみた。
「……凄い雨だね」
窓に打ち付け、まるで滝のように流れる雨。外はひたすら暗く、深い闇が広がっている。
「ああ。……そういやあの烏は?」
窓から櫂兎に目を戻した凛は不思議そうに訊いた。
「肩に乗るの、飽きたらしくてどっか行っちゃった」
「そうか…っくしゅ」
凛が小さくくしゃみする。
「風邪ひいたんじゃないか、湯ざめしたから……」
「いやいや、こんなの風邪に入らないよ」
大丈夫という凛の話聞かず櫂兎は廊下に出て、そば歩いていた燐果に声をかける
「凛様、だから湯ざめしないようにと申しましたのに」
「でも大丈夫だよ…」
「いいえ、今日はもうおやすみになられてください。何かあたたかいものお持ちしますね。ほら、行きますよ」
「うう…櫂兎君、また明日」
「うん、また」
名残惜しそうに室を出て行く凛に、櫂兎は小さく手を振った。
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