「それにしても、ここまでで甘露茶どれだけ買ったの……」
引っかかった茶葉を秀麗にとって欲しいと頼んでは拒否され、渋々自分で茶葉を外しだした千夜は呆れるように問うた。
「まぁ…たくさんでしょうね」
悪びれもなく秀麗は言った。
「全く、いくら買えば気が済むのやら」
「ああ、さっきのお店で最後です。もうすぐ金華でしょう?」
「よく分かったね、さっきの茶店ででもきいたのかな?」
そうして優美な笑みを浮かべた千夜はひょいと茶葉の包みを一つ手にとった。
「こんなにあるのならひとつくらい私に淹れてくれてもいいだろう?」
「駄目です」
すっぱりと笑顔で断った秀麗を、千夜はじっと見た。
「それは、大切な人達に淹れてあげるから?」
「はい」
「……私では、駄目?」
微笑み問うその姿は、濡れてしぼんだ子犬みたいに見えた。思わず言葉に詰まり、秀麗は目線をそらす。
(……どうして私はこの人の問いに答え出ないんだろう)
何となく、何故だか、考えることを放棄した。
「この甘露茶は、大切な人達に、後でたくさんいれてあげるために買ったんです。若様にはあげられません」
思いのほか、若様が駄々こねては甘露茶を淹れてくれと強請ったのを、秀麗はのらりくらりと流し断る。
(……何だか、いつかに櫂兎さんにきいた話みたい。若様はそんなに物騒な人じゃないけれど、二胡を弾いてやら髪留を外してはよく言われるし、自分はそれを受け入れてる。大事な人と離れ離れになっている自分は、あの話の少女そっくり。)
結局少女は賭けに勝ったのか、それはいくら考えても分からなかったけれど。
「『男が何度甘露茶を淹れてと言っても、彼女は甘露茶を淹れなかった。これは帰って大事な人達に淹れるものだから、と言って』…かぁ」
秀麗は軒の外に顔だして、風を感じながら青い空見ては呟いた。
本当に、何から何まで、まるで私だ。……私は、最後まで甘露茶淹れないでいられるだろうか。
「どうかしたの、香鈴。軒の外なんて見て」
「少し外の空気を吸おうと思ったんです」
中に戻った秀麗はにこりと笑った。
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bkm