「ではおじさん、ここのお店の残り甘露茶全部ください。お代はうちの放蕩若様、琳千夜様までお願いします」
店員は店先に吊るしてあった茶葉を外し置いてから、背を向け棚を漁り始める。結構な量あったらしい
「しかしお嬢ちゃん、こんなに買ってどうするんだい?」
「大切な人達に、また会ったときたくさん淹れてあげるんです」
店員の問いに秀麗ははにかんで答えた。
「そうかい、そりゃいいな。…っと、これで全部だ。重いけど、持てるかい?」
「あ、大丈夫です。力には自信が…」
そうして腕をみせる秀麗をよそに貘馬木は茶葉の束を全部持ってしまった。
「軒まで運ぶよ」
「えぇ、そんなの申し訳ないです」
「でももう持っちゃったから」
にやりと意地悪く貘馬木は微笑んで軒に行ってしまった。秀麗が後追えば、にこにこと軒の前で笑っている。手はからっぽだ。
「軒の中の人が受け取ってくれたよ」
「そうなんですか」
「うん。じゃあね、金華はすぐそこだよ」
「はい!また会えるといいですね!」
貘馬木はにこりと笑って答えず金華とは逆方向に歩き出した。もちろん、もう二度と会わないこと祈るばかりだ。少なくともここ茶州で彼女が州牧就任するまでは会いたくない、と貘馬木は思った。
軒に乗った秀麗は、千夜の姿に呆れた。
「どうして茶葉頭やら腕に吊り下げてるんです…」
「さっき軒に投げ込まれたのが上手い具合に引っかかっちゃったんだよ。香鈴が投げ入れたんだろう?」
「まさか、私は投げ入れなんてしていませんし。若様、ご冗談も大概にして下さいよ」
投げ入れたと言うにはあまりにも上手く吊り下げられすぎている。自分でわざと吊り下げたのを、気を引きたいがためそう言っているように思えた。第一、あの口笛の上手い男性がそんな真似、するとは思えない。
「本当だって」
「もう、いくら構われたいからって嘘は駄目ですよ」
「…………」
千夜は少し眉下げた。
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bkm