「助かった…抱き潰される次に幸せな死に方するところだった。でも俺、どうせなら妹からの愛で圧死したい」
死因が可愛い女の子と世界一イケメンに押し潰されるだなんて…なんとも素敵極まりないことであった。
「そんな柔にできておらんだろうがお前は。人を軽々と抱えるくらいするくせに」
「抱えるのと乗られるのは違うよ、いやでも本当、呼吸苦しくて目の前霞んだからな！」
はあと溜息ついたところで景侍郎が茶をことりと置いた。礼をいったところで景侍郎は仕事に戻るからと席をたった。
部屋に二人、茶を啜る櫂兎が不意にきいた。
「あ、そういや鳳珠、この一日一回のお茶、秀くんにちょっとは休んだらって言われたからなんだろ？ ったく人が休めと言うのはあんまりきかないくせ。よっぽど秀くんのこと、気に入った？」
その問いには鳳珠は答えず、少し不機嫌そうな声で言う
「……お前、あれを分かってここへ遣っただろう」
「さて、なんのことだろうな。ちなみに発案は李侍郎だから、俺は関係してない」
ひらひらと知らんぷりを決め込んだ友に鳳珠は溜息をついた。そんな様子をみせるのも気にせず、思い出したように櫂兎が口にする。
「そういや絳攸――李侍郎の評判とか評価って、実はあんまりいい風に言われてないの？ なんか仕事してないんじゃないかって最近他人から言われてばっかでさ」
「いや……あれは朝廷随一の才人と言われているし、若手からすれば憧れの的。出世株だが実力者だから羨むものはいても妬むものは少ないはずだが…」
「……ん〜」
少し考えた風にした櫂兎が、暫くして一言、「成る程」とだけ呟く
「何か分かったのか？」
「うん、俺の仕事がちょっとできたみたいだなって」
何の仕事だと問えば、李侍郎の雑用、とだけ彼は言いにこりと笑った。
「……もう茶は飲んだろう。さっさと仕事に戻れ」
からになった湯呑を手に、にこにこと鳳珠をみていた櫂兎に、鳳珠は痺れをきらし言った。
「戸部に来たやつは友人だろうが熊ちゃんだろうがこき使うのな…」
ちぇ、と櫂兎が呟き立つ。
「熊…？」
「そう、燕青って名前でここに十字傷がある」
ここ、と左目もとを指してにやりと櫂兎が笑う
「高官さん方は仕事負担減ってないだろ？ このままじゃ倒れるのも時間の問題だし――そのときは俺じゃなくあっちをこき使ってくれよな」
「……お前は知っていても言わんのだな」
「口にすれば呆気なくなるからな。回りくどくかつ、ごく自然にさり気なくってやつだ」
それを食えん狸と言うのだと鳳珠が言えば、櫂兎は本気で嫌そうな顔をした。
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