書簡を届ける途中で劉輝に見つかりそうになりながらも、なんとか切り抜け一息ついた秀麗は、またしても謎の「おじさん」と遭遇し、なんだかんだ言いくるめられ書簡を運ぶのを手伝ってもらうことになってしまった。
書簡を持った「おじさん」は、その量にブツブツとむちゃくちゃな持論のもと文句を言い出す
「まったく君みたいないたいけな少…年をこんなにこき使って。一度直訴しに行くかな」
「いえ、仕方ないんです。今日また二人が倒れてしまって。もうてんてこまいで」
「なに? ……まさか高官吏と碧官吏じゃないだろうね」
「え? ええ、そうです。よくご存知ですね」
途端男が額にてをあてた。
「……なんてことだ。じゃあ今施政官は黄尚書と景侍郎だけになってしまったのか」
「はい…まあ」
燕青という戦力不明者一人に、戸部の通常仕事は殆どこなす頼れる櫂兎がいることは伏せて言う。男は溜息とともにぼやいた。
「まったく……あいつは加減という言葉を知らないからな」
「黄尚書とお知り合い……なんですか?」
「ん? ああ、同期なんだよ。同じ年に国試を受かってね」
秀麗は目を丸くした。目の前の人物はそうすると、最低でも二十歳ちょっとで国試に受かっていることになる。かなり若い。頭のいい証拠だ
そんな秀麗を見て男はにっこりとわらい、いつものように話をしてくれる
「私が国試を受けたときは何かと特例が多かったみたいでね」
合格者が少なかったのだ、と男は言った。それもこれも黄尚書の素顔が原因だったという。それほど酷い顔なのかと秀麗は少し黄尚書に同情した
「そのとき彼はまだ面をしていなかったから、素顔を見てしまったもの続出でね」
もしここに当時の彼を知るものがいたら『お前が面白がって連れて素顔を見せ回っていたんだろう』と突っ込んだに違いない。
「それは…黄尚書も災難でしたね……」
「そうでもない、倒れた者もいた分、平気だった者も少なくともいて、国試前から連む仲の者ができたんだから」
私も素顔をみて平気だった一人だよと男が言うのに秀麗はまた驚く。しかし素顔の感想については悪いと思い訊かなかった
「他にも平気だったのがひい、ふう、みい……」
数える仕草をした男の指が、ピタリと止まる。
「あと一人、居たような――?」
誰だったか、と考えこみ固まった男を秀麗が心配そうにみる。それに気づき男は「まあそんな感じでね」ととりもち話を続けた。
何か妙な引っかかりを抱きながら――
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bkm