そもそもの始まり 12
「そういえば、お前の屋敷ができたそうだ。偏屈大工の爺さん監督だからちょっとした仕掛けもあるかもな」


「何それ仕掛けって隠し扉とか掛軸の裏に抜け道とか?」



殲華は笑って何も言わなかった。

えっ、本当にあるの?!


そんな訳で噂の客人な俺は朝廷おさらばするのである。それを決めた頃には既に、邸できた報せを受け取ってから一年半ほど経っていた。何かと名残惜しくて去るのためらっていたのだ。しかしそれも、今日で終わり


「この書状もってろ、いつ何時でも廷内どこをうろついてても許可する。暇なら遊びにこい、なんなら雇ってやってもいい。こき使ってやるぞ」


「それは最終就職先候補で! 嫌な予感しかしないし。あ、でも書状、有難くもらっとくよ」


どこをうろついててもいい…ということは後宮もアリなんだろうか? これはなんというチートアイテム…



そこに、す、と入ってくる人影。


「まさかあなた自ら案内するつもりじゃないでしょうね、殲華王」


「あ、瑤旋」


その声の主をみて明らかに見つかった感を醸し出している殲華


あー、何も言わず王宮離れて俺連れていってくれるつもりだったんだ?



「殲華王、ここはこの瑤旋が案内しますゆえ。では櫂兎、行こうか」


「………櫂兎、こいつといつ知り合ったんだ」

「道にちょっと迷ってたときにお世話になったんだ」


「浮気か」


「何でだよ!
ほら、魁斗に会った日、殲華が俺を縛って床に転がす直前まで瑤旋と梅干しを漬けるにあたって何をいれると美味しいかを楽しく語ってたんだぜー」


ちなみに梅干しには鰹節を入れるのが、俺の好みだ。

くっ、と悔しそうな顔をして殲華が椅子に座す。

何故か勝ち誇ったような顔をして瑤旋は俺の手を引いていった








「まぁ、このまま屋敷へ行くのもなんだしこの前言っていたお約束の2人を紹介しようと思ってな」


連れていかれた先は景色のいい庭。その2人は庭に出された机で美味しそうなお茶とお茶菓子を味わっているようだった。
まったりしてるな、仕事しろよなんてツッコミはよしておこう。どうやら俺のために時間をさいてくれたようだった


「初めまして、棚夏 櫂兎です。」


その言葉に顔を向ける2人


先に立ち上がったのは鴛洵と思わしき男性。若い、とはもう言えない歳の筈なのにどこか、こう、イケメンオーラを醸し出している。


「茶 鴛洵です。こちらは宋 隼凱。よろしくお願いします」


勝手に名を紹介されてしまった隼凱が焦ったように立ち上がる

「ちょ、鴛洵、俺の台詞なくなっちまうじゃねえか
まぁ、今日はそんなに時間ないから仕方ないが…王から朝廷出入り許可もらったんだろ? また話しような」


「ありがとう! 鴛洵、隼凱。俺は櫂兎って呼んでもらえると嬉しい」


また遊びにいってもいい言質がとれたので遠慮なく訪ねさせてもらおう


「では行こうか、櫂兎。ちょいと遠い、日暮れまでに着くには急がねばならん」


「わかった。じゃあまた!」



そうして瑤旋に手を引かれ、その場を去った。


残った2人はそれをみて顔を見合わせた。


ぽつりと鴛洵がこぼす


「手を繋ぐ必要性はあるのか……?」



櫂兎がそのことに気づくのは、屋敷に到着して案内を終えた瑤旋が去った後となる

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空中三回転半宙返り土下座
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