「先程はありがとうございました」
荷馬車の中から顔を覗かせふわりと微笑んでみせたその顔に、俺は盛大にずっこけたくなった
悠舜さんなんでこんなところにいるんですか……
「あいにく私足が悪くて降りられないんです、荷馬車の上からの無礼お許し下さい」
「いえいえ…にしてもこの時期にどこへ向かわれるんです?」
「茶州へ」
………どうやら何処かからの御帰り途中だったらしい
と、先程逃げたと思われた御者が恐る恐る戻ってきた
「先程は申し訳ありませんでした、州尹様」
その謝りの最後に、悠舜ががくりと肩を落とす。余計なことを言われてしまっただとか思っているんだろう
「命を脅かされたわけですから仕方有りません、お気になさらないで下さい。それでは茶州へ、急ぎましょうか」
「はい!」
「では、申し訳ありませんがこれで。失礼します」
そうして言及お断り、といった風に悠舜は荷馬車の暖簾を下げてしまう
そのまま行ってしまった馬車、俺は道に1人取り残され感たっぷりにしょげていた
「よかったんですか、州尹様。せっかく助けて頂いたのに、すぐ去ってしまって…」
「構いません。と、いうか私が州尹であること伏せていただけていればお話できたんですけどねえ」
苦笑しながら答えれば「すみません」とかえってくる
危険な綱渡りで、燕青一人残し茶州を離れここにいる。それも茶州の資金集めのために
それが公になるのは危険すぎる。そのことを御者に強く言い聞かせなかった自分が悪いといえば悪いのだが
そして先程、あっという間にゴロツキを伸した、美しい女人を思い出す。名前くらいきいておけばよかった。ああ、そういえば
「隠し花菖蒲……」
女人の服に、目立たないが美しく花菖蒲模様がはいっていた。どこかの高貴な姫だったのだろうか
その模様で、今は遠く離れた貴陽にいるであろう同期の彼を思い出す。今頃どうしているのだろうか
懐かしむ気持ちを惜しみながらも振り切り、今は茶州のことが先決と、悠舜は意気込んだ
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