待ち望まない争いと 35
1人さみしげに道でしゃがんでいたら戻ってきた迅に心配された


「急ぎのようですぐ行ってしまわれたんですの」


「そっか…まー、仕方ない。俺らも貴陽までまだまだ長いんだし行こうぜ」


「ええ…」


服の砂埃をはたき落とし馬車に乗る


「に、してもこの馬いい子ですわね。ゴロツキのところにいっている間主人をじっと待ってましたし」


「ああ、俺の愛馬。青い毛並みがきれいだろ、走るのもすっごく速くて、よく頑張ってくれるし賢いんだ。普段は鞍乗りでお籠引くとかすることないんだけどな」


もしかして遠い未来劉輝を乗せて走ってくれる夕影か!?
後で人参食べさせてやろーっと


しかし、他州(藍州しかみていないが…)だと、貴陽ほどそこまで酷く物資不足なわけでもなさそうだ。貴陽は人口集中で周りにそこまで豊かな土地もないから食物足りないのかもしれない

ちなみにさつまいも畑に転換してからは適当に肥料として油粕や干鰯、厩肥なんか混ぜているが、サツマイモであるがゆえにそこまで土に栄養素要るわけでもない


今年も芋、植えないとなー
去年つくった芋は配ればすぐなくなったので今年もそれくらい作るつもりだ。余っても干し芋にすればおいしく保存できるし
問題はさつまいも料理というのは調理法が限られること。焼き芋、茹で芋、天ぷら、フライ、大学芋、スイートポテト…
小麦粉と違って調理法によっての食感や味あまり変容しないし、米と違って飽きがくるのだ

贅沢な悩みだが。今年も去年の様に芋芋しくすごせばそのうち芋になってしまうかもしれない






「今日はこのあたりで野営かな。篭の中ならそれほど寝心地悪くないと思うし…。慣れない長旅になるだろうからゆっくり休んでくれな」


「ふふ、ありがとうございます。私体だけは頑丈なつもりですから」


昔そういって風邪ひいたりよく分からないものに憑かれたりしたことは棚の上だ
ぱちぱちと薪のはぜる音と、もってきていた保存食の鹿肉がこんがりと焼けるいい香りがする。


「普段食べてるものと比べれば全然いいものなんかじゃないかもしれないけど…長旅だから我慢してな」


「いえいえ、ご馳走ですって。去年貴陽が飢饉で酷かった夏、まともにごはんなんて食べられなかったですし、毎日お芋のオンパレードでしたから。まだ、その傷跡も完全に癒えたとはいえませんしね」


「おんぱ、おんぱれ…?」


「勢ぞろいということですの。」


そうしてサツマイモ生活を語ったせいで、迅は俺を『お芋姫』と呼ぶようになってしまった。あんまりうれしくないぞ…



「私は篭に戻りますけど、迅君は?」


「火番ついでに起きてるよ。何か用があれば…」


「夜通し見ているつもりですか?! 疲れているのは迅君でしょう?」


「俺は慣れてるし…」


俺はガシッと迅の首襟をつかんで篭の中に押し込んだ。そして言う



「月が真上に上るころ起こしますから、それまでゆっくり眠っててください」


「いやそれは」


「返事は?」


「だからその」


「返事は?」


有無を言わせぬ笑顔で言えばしぶしぶ「はい…」と言って迅は篭の暖簾を下げた
中から寝息が聞こえてくるのを確認して、俺は焚火の前にしゃがみ込む



「若者が若いうちから夜更かしなんて不健康生活なんてよくないしねぇ」


そう思うだろ、といづれ十三姫の愛馬になるであろう夕影に話しかければ、青い毛を揺らしつぶらな瞳でこちらをみつめられる


「……愛に狂う男、ねえ」


司馬家の問題は俺が手を出せるようなもんじゃないし、迅に『十三姫を守るな』なんて言えるわけもなく


「俺ってば歳食ってばっかでできないことはできないままなのかな」


俺の心情を察するように夕影がすり寄ってくる。少しだけ、慰められた気がした

35 / 45
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -