「…………申し訳ありませんわ、旺季様。ご迷惑おかけしてしまうことになってしまって…」
「迷惑だなんてそんな、お気になさらないでください、華蓮殿。ただ…その、まさか藍家ご当主様方がお揃いで、その上お茶をご一緒するなんて思ってもみませんでしたから」
そうだろう。俺もそうだった
あれから一緒に行くといってきかなかった三つ子は、次の日になっても行く気満々だったらしく、身支度を整え「さあ、行こうか」なんて笑顔で言われたときにはBダッシュで逃げたくなった。
途中で振り切ろうとしても三つ子のうち2人が片方ずつ手を繋ぎやがりまして、俺が必死に振りほどき撒き、ぜえはあいいながら旺季のところに着けば……先回りしていた三人が同じ顔で同じように笑顔で、何故撒きたがったのかを責めてくる。俺もう泣きたい
このまま立ち惚けるのも何なので、皆席についてもらい茶を用意する。今日のお茶菓子はジャムを塗り食べる熱々のスコーンだ
「変わったお茶菓子だね。……塩味?にしては味が薄いけど」
まだお茶をいれてすらないのにそのままのスコーンに齧り付いた三つ子の…あー、多分月が言う
「それは、そのままだと味気ないですから、果物を砂糖で煮詰めたものを塗って食べるんです」
そしてイチゴジャムを差し出す。そのジャムをちょこんとスコーンに乗せて齧りつく月(仮)
お気に召したようで、他のジャムも試して食べだす
「華蓮殿の用意するお茶菓子はいつも一風変わってますな」
旺季が言うのに、三つ子がいつも華蓮殿の菓子を食べているのかとハッとして旺季を恨めしげな眼でみる。旺季はそれに内心冷や汗である
「故郷の…といっても生まれの場所とは馴染みないお菓子なのですけれどね。こういった焼き菓子作るの好きですから…」
そういいながら、どうぞと仄かに紅く揺蕩うお茶を配る
「……茶から甘い香りがするが、これはこの前飲んだもののように蜂蜜が入っているのか?」
「蜂蜜!?」
「お茶に?!」
旺季の言葉に驚く三つ子たち。皆お茶に砂糖や蜂蜜いれることを驚くよな……。まぁ、俺も烏龍茶や緑茶に蜂蜜いれるのはないと思うけど
「これには入っておりませんわ。茶葉の香り、ですわね」
その言葉に安心する三つ子。おい、紅茶に蜂蜜美味しいんだかんな!
マスカテルフレーバーというのだったか、いいダージリンの茶葉からは独特の甘い香りがするんだとか。彩雲国にダージリンなんて地名ないから茶名をダージリンというかは謎だが
と、茶を口にした三つ子の…誰だ、まあとにかく誰かがほろりと漏らす
「本当だ……甘い香りなのに味は渋い。それもまた美味しい」
「寒暖の差の激しい標高の高い山地で育てたものしか、この茶葉の風味はでませんの」
ふふふ、登りましたとも。州境の名も知らぬ大きな山を茶葉のためだけに!
以前に茶葉に良さげな環境もった山を探し植えて置いたのだ。育つかどうかは賭けだったが、見事に群生してくれた
美味しそうに飲む面子に笑みが零れる
「あぁ、言い忘れてました。このお茶の名前、見ての通りほんのり明るい赤が見えることから、『紅』い『茶』と書いて紅茶と呼ばれておりますの」
それをきいて思いっきり嫌そうな顔をしながらも、空になった湯のみをこちらに突き出す三つ子に、俺はざまあみろとほくそ笑みながらお茶のおかわりを淹れた
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bkm