季節は秋。本来実りを迎える季節だが、未だ残暑厳しく、夏の日照りの影響で田はまともに機能せず、米不足は安易に予想された。それに合わせ、古い米も市場に出だすが、それらが売り切れるのも時間の問題だった
そして吏部尚書室では
「……甘煎餅の妖精が芋団子の妖精と婚儀をあげたようだ」
小麦粉を少量で済ますためさつまいもを混ぜたクッキーや、ちょっと作ってみたスイートポテトが差し入れられるようになった
食物繊維たっぷりで体にもいい、黎深の健康を気遣った素敵なお菓子である
「おい楊修何を食べている! それは私のだろう!?」
「仕事しない人は食べてはいけない決まりなんです。尚書、仕事してください。これとこれとあれとそれ、終わらせたら、この甘煎餅最後の一枚あげます」
「くむっ、卑怯だぞ楊修」
お前が言うか、とそのとき誰もが心の中で突っ込んだ
「ふっ、だが甘い」
黎深はそう言うと手に持っていた扇を投げ、皿の上のクッキーのみを弾き飛ばす。空を舞うクッキーはやがて、大きく弧を描いた後黎深の口におさまった。
「ふむ…これもなかなかぷまいではないか」
芋の風味を味わう黎深に、楊修はニヤリと笑った
「食べたからには、仕事を断れませんよね? だってその甘煎餅、仕事をしない人は食べられないものですし」
「むぐっ」
顔を引きつらせる黎深だが、楊修は容赦ない
「この後兄上のところへ…」
「行かせません、行く暇なんてないの分かりますよね仕事してください尚書」
にこりと笑った不敵な笑みに、その場にいた全員が、彼こそ次の吏部侍郎だと確信したそうな
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