進士、下っ端官吏 40
「華蓮!!」


室に入るなり抱きつかれる。うーん、劉輝の抱きつき癖はなおさないとだめかも…



「劉輝様、だれもかれもに抱きつくのはよしてくださいね」


「む、余が抱きつくのは華蓮だけだぞ?」




あー、俺だけにならいっか?

……なんかいけない気もするが、まあいいとしよう。



「今日は水羊羹を作ってきてみました」


「おお! 早速食べよう!」


急かす劉輝を座らせ、机上にちっちゃいまな板と鋼糸をとりだす


「? 華蓮? 糸なんて取り出してどうするのだ?」


「ああ、この糸鋼でできていましてね。こうやって…」


そうしてすっと水羊羹に鋼糸を通す。綺麗に水羊羹が切れた


「切り分けるのに便利なんです」


本当は人に対しての拘束術だとかで用いられるものなのだが、水菓子やらきるのに便利なので俺は今のところそういう用途にしか使用していない。

ちなみに暗器の糸はもっと細いし取り扱うときは手が切れないように手袋必須だ


「華蓮はいろいろなことを知っているのだなー
そういえばこの前も華蓮に教えてもらった『ひっさん』とやらを使って計算していたら邵可に驚かれたぞ」


「そうなんですの? 私の故郷ではそれを使うのが普通でしたのよ」


「華蓮は貴陽生まれでないのか!どこだ? 藍州か? 紅州か? 黒州か?」


「……ここからは、遠い、遠いところですわ。黒州や白州の遠さなんて目ではありません。とても遠いところで…もう帰れないかもしれないところです」


「帰れないなら、ずっと余と一緒にいればいい」


無邪気に笑った劉輝。その劉輝の言葉は、何より残酷だ





「でも私は、一番大切なものをおいてきてしまいました」





俺の妹、佳那。

いくらここ彩雲国で大切な人が増えゆくとして、一番大切な彼女はどこにもいない。
俺は、まだ妹の高校卒業式も、大学合格したところも、嫁入り姿も、『今一番幸せだよ』の言葉も、『兄貴がいなくても私は笑えるよ』の言葉も、全部全部みてない、もらってない、のだ。

兄としての役目を全うできていないのだ。何より、俺が妹を必要としてる。俺が俺であるために、妹はいなくてはならない存在だから



「だから…帰れるものなら、帰りたい」


いつになっても。

だからもしお前のために隣を開けて待ってるなんて約束を、守れなくても許してくれ、劉輝。そんな泣きそうな顔しないでほしい

40 / 43
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -