進士、下っ端官吏 36
「遅い」


「……すみません」


「っていっても、定時には余裕あるから問題ないんだけどなー」


そうして貘馬木はケラケラと笑ってから、手際良く『俺』を『明』にしていく


ふと浮かんだ疑問を口にする


「貘馬木殿は婚姻結んでらっしゃるんですか?」


「してるよ。この前刑部でもいったでしょーが」


どうやら冗談の類と思われたあの話は本当だったらしい



「妻と二人、愛し愛されの仲良し夫婦だぜ〜。いっつも愛妻弁当持ってきてるだろ?」


「全部冗談の類だとか、弁当は自分で作ってらっしゃると思ってました。……その、言っては悪いんですけど、弁当、見た目とか男らしい荒々しさが……」


おにぎりにキュウリの漬物まるまる一本切らずささっていたとき、ついにこの人頭でやられたかなとか思っていたが、奥さんの仕業だったらしい


「あー、あいつ、幼い頃から後宮で貴妃仕えとかしてたから、そーゆーコトとか苦手らしくって。でもま、そんな不器用なところもかわいーっていうかぁ…」


なんか惚気話をされた。正直どうでもいいので受け流す。そうしているうち化粧終わった様子だったので、そろそろ行こうと席を立つ


すると、急に貘馬木殿が叫んだ


「……吃驚させないでくださいよ。何です?」


「華蓮だよ、華蓮。第六公子の話してた名前。
なんか妻が後宮辞めるちょっと前に入った女官! それが華蓮って名だったはずだ。
やたら褒めるから俺ってばちょっと嫉妬して、それ見抜いたあいつが『でも貴方の素敵さには誰も敵いませんわ』ってちょっと恥ずかしそうに言ってたのが超可愛かった…じゃなくて、その期待の新人ながらすぐ筆頭女官にまで上り詰めたとかいう、華蓮。そいつ、只者じゃない。しかし女か…名前で予想はしてたが、官吏にはなれない、か。戸部にいい人材だと思ったんだがねぇ」


冷や汗ダラダラ、それ俺ですとは口が裂けても言えない


「まあ、折見計らって偶然装い会話くらいしてみたいかも」


よし、この人とは華蓮のとき会わないように気をつけよう

36 / 43
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -