「遅い」
「……すみません」
「っていっても、定時には余裕あるから問題ないんだけどなー」
そうして貘馬木はケラケラと笑ってから、手際良く『俺』を『明』にしていく
ふと浮かんだ疑問を口にする
「貘馬木殿は婚姻結んでらっしゃるんですか?」
「してるよ。この前刑部でもいったでしょーが」
どうやら冗談の類と思われたあの話は本当だったらしい
「妻と二人、愛し愛されの仲良し夫婦だぜ〜。いっつも愛妻弁当持ってきてるだろ?」
「全部冗談の類だとか、弁当は自分で作ってらっしゃると思ってました。……その、言っては悪いんですけど、弁当、見た目とか男らしい荒々しさが……」
おにぎりにキュウリの漬物まるまる一本切らずささっていたとき、ついにこの人頭でやられたかなとか思っていたが、奥さんの仕業だったらしい
「あー、あいつ、幼い頃から後宮で貴妃仕えとかしてたから、そーゆーコトとか苦手らしくって。でもま、そんな不器用なところもかわいーっていうかぁ…」
なんか惚気話をされた。正直どうでもいいので受け流す。そうしているうち化粧終わった様子だったので、そろそろ行こうと席を立つ
すると、急に貘馬木殿が叫んだ
「……吃驚させないでくださいよ。何です?」
「華蓮だよ、華蓮。第六公子の話してた名前。
なんか妻が後宮辞めるちょっと前に入った女官! それが華蓮って名だったはずだ。
やたら褒めるから俺ってばちょっと嫉妬して、それ見抜いたあいつが『でも貴方の素敵さには誰も敵いませんわ』ってちょっと恥ずかしそうに言ってたのが超可愛かった…じゃなくて、その期待の新人ながらすぐ筆頭女官にまで上り詰めたとかいう、華蓮。そいつ、只者じゃない。しかし女か…名前で予想はしてたが、官吏にはなれない、か。戸部にいい人材だと思ったんだがねぇ」
冷や汗ダラダラ、それ俺ですとは口が裂けても言えない
「まあ、折見計らって偶然装い会話くらいしてみたいかも」
よし、この人とは華蓮のとき会わないように気をつけよう
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bkm