進士、下っ端官吏 26

貘馬木視点



「貘馬木殿…こうなること最初から狙って俺のそばに楊修おいたでしょう」


ムッとした風に棚夏は言う。流石に気付かれてしまったようだ。
いや、本当に狙っていたこととはずれてしまっているので、このままでいいかについては迷っているのだが


「ん?さぁて、何のことやら。まー、新人ちゃんは先輩の後ろ姿をちゃんと見てるもんなんだよ。だからお前のずっと気にしてる尚書さんに楊修も目を向けたのー」


そう。彼はずっと尚書を気にしている。本当なら、彼が尚書に物申し仕事させるまであの手この手を尽くし、やがて吏部侍朗の位置にのぼれば、国的にも吏部的にも強みになれる、吏部がよりよく機能するはずだった。

まず、彼のこなす仕事量の多さ、早さ、正確さはお墨付きだ
そして根性。楊修もなかなかだが、彼の根性は発揮されると凄い。相手が説得され折れてくれるまで待つのではなく、相手を折っていくくらいの凄まじさだ。

楊修ではこうはいかない。まあ、楊修は駄目と分かるまで諦めないが。

さて


「どっちが折れるのが先かな」


「お互いに譲歩で落ち着くと思いますよ」


…ふぅん?
それは、俺と棚夏が?
いや、尚書と楊修がか。しかし譲歩? 尚書が仕事をする、だとか楊修が説得出来ないではなく?
尚書が少し仕事をしたりしなかったりで、楊修がずっとそれに仕事しろーって言い続けるってことか……


「棚夏もやっぱり、楊修みてあの位置には彼がいいと思った?」


「……んー、ですね。容赦なく切り捨てられるあたりとか、人を比べるとき見ているところだとか。
適していると思わなければ、即刻指導係辞めるつもりでしたけど。
彼を知れば知るほど、貘馬木殿の思惑に賛成するを得なくなるし、ああやって尚書に仕事させようとビシバシ言える人間としてなら、彼は非常に優秀。でしょう?」


さすが彼も吏部の人間。人のことをよくみている
しかし優秀さなら棚夏の方が上なのだが……


「うんうん、そして棚夏が暇あらば手伝って尚書の書類の処理してるのをいつもみていたのが彼ってね」


嫌味の一つでも言ってみるが、彼はもう尚書を楊修に任せた気でいるらしい。俺の言葉から、棚夏はただ楊修のことを拾った。


「みてやること無意識に覚えさせるってことですか…正式な仕事じゃないからって。俺の役割を楊修に、より吏部が機能するかたちで受け継いでもらった、ですね」


ずっと、尚書のこと気にしていたくせ、尚書を仕事させる説得は自分でなくてもいい……のか?


「本当は、棚夏にして貰いたかったんだがな」


本音がぽろっとこぼれたが、彼はあっさりそれを否定した。


「嫌です、そんな貧乏くじ御免です。だって尚書働く気なんてないって言ったくせ官吏として国に拾われてこの位置に置かれたんです。
だから、尚書の今の態度は何らおかしくはないし、そんな尚書を『僕お国の為に働きマス!』なんて言わせるのは無理ゲーです」


………なんというか、意外だ。尚書の説得だとか、仕事させるだとか。彼がする気は全くなかったらしい


「きっと楊修も近いうちに気づくと思います。黎深が官吏になった理由が、思いっきり私情的なこと」


「………んー」


尚書が、官吏になった理由……ね
誰がそんなの知ったところで理解できるんだろうか

っていうか。棚夏さっき尚書を呼び捨てて黎深って!黎深って!?
何、尚書と彼、どういう関係!?
それとなく探ってみる……か?でもこいつ相手だしなあ……



「あー、いいや。俺、遠回しの探りが棚夏に通じるとは思ってねーし。単刀直入に訊く。紅尚書と、っていうか悪夢の国試組と棚夏の関係って…何?」


そうきくと、棚夏が考えるポーズをとる。本人も悩みどころらしい。そうして出した結論は…


「彼の兄と、俺、友人で。尚書とは同期です、俺も一応皆様がいう悪夢の国試組ってやつですよ」


途端に俺はこいつに墨を投げつけたくなった

何だそれは。悪夢の国試組、だと?
いや、それより。尚書の兄といえば俺が何度も昇進させろと言っているあの府庫の隠れた才人、紅邵可だろ? あれと、友人?

そういえば、悪夢の国試って、状元2人いたよな……確か1人があの鬼才で、もう1人は進士式きてなかったから官吏になる気がないやつだったと思ったのだが。そうだ、そいつの名前ーー棚夏、櫂兎……


「……悪夢の国試の状元片方は官吏になってないと思ってたぞ………何でこんな下っ端にそんなのが埋まってんの」


通りで、各部覆面官吏として潜り込んでいるとき黄尚書や管尚書と仲よさげな雰囲気醸し出してるのみたはずだった

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空中三回転半宙返り土下座
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