その日、吏部に奇跡が起きた
尚書が仕事をしたということだった。
「お疲れさん、楊修。毎日頑張ったな、でもまだ頑張れ」
「棚夏殿…」
疲れが隠しきれていないが、一息ついて安心した風の楊修
…うん、黎深が仕事に超絶手を抜いていることはまだ黙っておこう
「棚夏殿、どうして尚書に毎日幻の甘煎餅なんか差し入れてるんです? あの人、幻の甘煎餅の妖精が尚書室にいるんだと思ってましたよ」
おお…俺は妖精扱いか
何でって……まあなあ。本人も忘れているだろう些細な彼の発言がことの発端だ
国試本番で熱出してから自邸出るなって葉医師に言われておとなしく家でごろごろしてたとき。
黎深がみかん持って見舞いだとか何とかきてくれた。そのときお茶菓子としてだしたクッキーを彼がいたく気に入ったみたいでこう言ったのだ。
「毎日これが食べられるなら、仕事したっていい」
俺はあははと笑って、土産にしていいからと大量のクッキーを渡した
あとから悠舜に聞いた話だと、その日初めて彼は新進士としての仕事をばっくれず雑用までこなしたそうで。(しかも、他の奴らにもよろしくといっておいたクッキーは独り占め)
その話をきいたから、吏部尚書となったのに働かない黎深の元に、クッキー持って仕事しろと言いにいったのだが。
まあ、本人があれだから仕方ない。
「吏部尚書が『毎日これを食べられるなら、仕事したっていい』って言ったことあったからだよ」
「……尚書に棚夏殿のこときいても『知らん』の一点張りでした」
「本人が俺のこと忘れてるんだから仕方ない」
そう。仕方ない
俺は彼にとってぺんぺん草にしか思われてないんだから
それでもクッキー差し入れやめないのは、俺にとってそれでも黎深は友人だからで
「だから楊修、尚書が仕事しなければ容赦なくその甘煎餅取り上げていい、食べてしまってもいい」
その言葉に一瞬楊修は尚書が仕事しないことを願ってしまったりしなくもなかった
△Menu ▼
bkm