「太白将軍、彼は何者です?」
景侖が問う
「……うーん、宋将軍のご友人、ってくらいしか僕も知らないんだ」
「……ご友人…にしては結構な歳の差ですね」
「んー、でも彼、多分あれで30こしてたはずだよ」
その言葉にぎょっとする景侖、だがそれも気にせず太白は続けた
「だって彼と知り合ったとき、まだ僕は結構な下っ端の警護で、暇そうにしてたからって理由で宋将軍に、彼に剣教えるよういいつかったんだよ。それが10年ちょっと前の筈だから…」
「……何者です? 彼」
再度問う景侖。太白は穏やかに微笑んだまま何も言わなかった
「殲華ー久しぶりー、早速だけど着替えるから室貸してなー」
「……遅い。息子のところには行った癖に俺のところにこないとはどういうことだ」
「ごめんごめん、だって殲華お見舞い来てくれただろ、顔みたし…」
服を脱ぎ捨て女官服を羽織る。一式珠翠に預かっていてもらってよかった
「だが、お前からは来てくれていないだろう」
むくれた様子の殲華に苦笑する
「でも、ま、殲華が国試受けて来い〜って言ってくれてよかったよ。それなりに今、楽しいし」
「そうか。……本当にやりたいことは、できていないんじゃないか?」
ぴくり、と身体が無意識に反応した。
「……本当は吏部じゃなくて礼部がよかったんだ。ただ、礼部は募集かかってなかったからさ…」
「そうじゃない、もっと根本だ」
どうしてこう、核心というか、まだ俺が自信なくて言えないのを聞くのか。言わざるを得ないじゃないか…
「………教育」
ぽつり、と呟く
「いくら、凄い人でも、知識でも、技術でも、それを継ぐやつが居ないとそれっきりになっちまうだろ。それに、無知は、怖い」
すぅ、と息を吸う
「教養って、ほんの一部の人間しか受けられないのが現状で、特に人の出入りの少ない地方なんかじゃ隔離状態、間違った知識だって継がれてる。偏見が偏見を産んでるし、間違いは繰り返される。それも現地の人間にとっては『正しいこと』やってるだけなんだから、なお悪い」
それは、大雪に対する生贄しかり、雨を降らせる人柱しかり
捧げたところで収まらないものは収まらないし、収まるものは捧げずとも良い。それより大雪に家が潰れるなら雪の重みで潰れぬよう屋根の傾きを急にすればいいし、雲ないところに雨降らず、川があるならそこから水引いたほうがいいし少ない雨でも水を確保するためなら溜め池を作るべき
神を頼らずともよいことを知れば、何かが変わるだろう。
そう、それを知っていれば。
知れる環境が、できればいい。
もしかしたら神様は本当にいて人の命と引き換えに、願いを叶えているのかもしれない、けど
命一つそれで消える道理があるはず、ない。と、思う。
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bkm