1月31日
「名前ー!愛してるよー!」
「わぁ、声が大きいよ!」
周りに誰もいないのを確認して、ホっと息を吐いた。
私の夫は、自分で言うのも恥ずかしいが、かなりの愛妻家。付き合っている頃から変わらず、いや、昔よりも溺愛っぷりがエスカレートしている。
キスは毎日暇さえあればしてくるし、誰も聞いてないのに惚気出すし、突然プレゼントを渡してくるのだって何度でも。
今だって、買い物帰りの私を見つけて全身ボロボロなのに笑顔で駆け寄って来てくれた。
「名前は、こんな重い物持たなくて良いんだよ。ほら、ちょーだい」
「でも、あなたは任務帰りでしょ?」
「俺は忍だからいーの」
半ば強制的に荷物を奪われてしまった。捲くった袖から血が見えて、胸がギュッと締まった。あぁ、何度見たって夫が怪我をしているのは慣れない。
「家、帰ったら消毒しようね」
「ん?あぁ、ありがとう名前」
「いいよ、あなたが無事なら」
家に帰って、まずは怪我の消毒をした。脱脂綿に消毒液を染み込ませて、傷口を優しく拭いた。
「痛くない?」
「へーき」
この人は、怪我をすること、無理をすることに慣れてしまっている。私が夫と付き合ってから、初めてそれに気付いた時、悲しいことだと思った。私だったら、針が刺さるだけでも泣きたくなるのに、きっと夫は気付かないふりをする。痛いのに気付けば、治療をしたり対処ができるのに、夫はそれをしない。そうやって、小さなものが積み重なって、大きくなってしまうんだ。
「他に怪我してない?」
「うん、多分」
「た、多分?もう、だめ。脱いで」
無理やり忍服を脱がせれば、背中に少し大きな切り傷があった。もう殆ど血は止まっていたけれど、とても痛々しい。
「もう、無理しないでよ……」
「ごめーんね」
「ごめんじゃ許さないもん」
「う、ごめん……」
こびりついた血を拭いて消毒を施した。もし自分が忍で医療忍術が使えれば、この傷をすぐに癒やすことができるのに。でも、夫はそれを良しとはしないだろう。
「名前がいるから大丈夫だよ、俺は名前のことを愛してるからね」
低くて優しい声は、私の耳の中を優しく震わせた。傷だらけの大きな背中にもたれて、頬をくっつける。私が知る夫の体は、ひんやりとしている。でも、それは私の体がドキドキして熱くなっているから、夫の体が冷たく感じるんだと気付いたのは結婚してからだった。何度触れても、私は夫にドキドキしてしまう。
「私だって、あなたに負けないくらい、あなたのこと……あ、愛してるの。だから……」
滅多に言わない愛の言葉を必死に紡げば、夫がいかに私のことを愛してくれているかが分かる。こんな照れくさいこと、毎日してくれるなんて。
「おじいちゃんになっても、おばあちゃんになっても、ずっと一緒にいたいよ」
「俺も一緒にいたいよ、おばあちゃんの名前も絶対可愛いもん」
「おじいちゃんになったあなたは、変わらず格好いいよ、絶対」
ーーあ、そうだ。これあげる。
差し出された一輪の花の先に綺麗なネックレスが絡められていた。
「俺って結構、愛妻家でしょう?」
「うん、とっても。頑張ったから、今日は何でもワガママ言って」
「えー?いいの?」
じゃあ、どうしようかな、と楽しそうに考え出すあなたは、きっと子供の時もかわいかったんでしょうね。いや、私はどんなあなたでも可愛いって思うかもね。
「決めた!」
「早いね、何して欲しい?」
「初めてキスした場所でキスしよう。あそこに行くのは何年振りかな」
「それでいいの?」
「それがいいの」
あなたの全ての傷が、いつか全て消えて癒えますように。背中の傷にキスをしてから、絆創膏を貼った。
あそこはね、今は黄色い可愛い花が咲いてるよ。そう言い掛けてグッと堪えた。あなたに内緒で私は何度もあそこへ行っているのがばれちゃう。
「名前行こうか」
「うん」
繋いだあなたの手がいつもより熱いのは、気のせいじゃないよね。
1月31日 end.
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