2月28日


「カカシくん、はんぶんこしようか」
「うん、いいよ」

そう言って、近所の3つ年上のお姉さんはビスケットを半分に割った。でも、綺麗に半分には割れなくて、小さいビスケットと大きいビスケットが出来てしまった。こんな時、父さんはいつも大きい方を俺にくれた。
右手と左手のビスケットを見比べてから、お姉さんは当たり前のように、大きい方を俺に渡してくれた。

「いいよ、俺は小さいので」
「いいの、カカシくんが食べて。わたしはダイエット中なの」
「え、ダイエットしてるの?そんなのいらないでしょ」

ん!と突き出され、俺は大人しくそれを受け取って頬張る。
サクサクとしてほんのり甘くて、お姉さんに美味しいねと笑顔で言われて俺は少し口角をあげた。

あの時、俺は初恋に落ちた。

しかし、俺の初恋は実ることはなかった。お姉さんは親の仕事の関係で里を離れてしまったから。忍じゃないお姉さんは、ひとりで里に残ることも出来なかった。
あれから、俺も大人の階段に昇りながら月並みの恋愛をした。好きになる人は、見た目だったり、癖だったり、どこかお姉さんに似ている人ばかり。俺は大人になっても、ずっと初恋を拗らせたままだった。


「カカシくん?」

突然、声を掛けられて振り向けば里では見慣れない人が立っていた。

「ねぇ、カカシくんだよね?」
「もしかして、お姉さん?」

その人が笑顔になって、見覚えのある笑顔を見て確信した。

「やっぱりカカシくんだ。久しぶりね」
「お姉さん……何で?」
「流石に、もうお姉さんは恥ずかしいな。転勤で木ノ葉配属になったの」
「そうなんだ、名前……さんで良い?」

ん!それで良し!と名前さんは笑って、俺のもとに駆け寄ってくれた。
それから、すぐに俺達は居酒屋に入り、昔話に花を咲かせた。一緒に秘密基地を作ったこととか、近所の犬に追い掛けられて犬嫌いになりそうだったこととか。
俺は嬉しくて嬉しくて酒をどんどん飲んで、気付けばかなり酔いが回り、かなり心地良くなっていた。

「最後に会った時は子供だったのに、一緒にお酒飲むなんてね」
「俺だって男になったでしょう?」
「うん、とっても男前だわ」
「名前さんだって、美人になった」
「ありがとう、でもそれは元からよ」

カウンターの隣に座る名前さんの頬が酒で真っ赤になっていた。可愛いな。

「俺、名前さんのことが好きだった」
「ほんと?嬉しい」
「うん、今でも好きだよ」

目があって、気付いたら俺は名前さんを部屋に連れ込んでいた。いつの間にか互いに裸で、ま、俺が脱がせたんだけど。
名前さんの柔らかい胸が体に押し付けられる。自分の唇を、名前さんの首筋に滑らせながら柔らかい素肌を両手で堪能する。あぁ、すごく満たされてる。

「名前さんは、俺のこと好き?」
「どっちだと思う?」
「嫌でも好きって言わせるよ」
「意地悪ね」





「朝だよ」
「んー……」

起きてよ、と言いながら布団の中で体を抱き締めれば、互いの素肌の体温が心地良く混ざり合う。

「あと5分だけ……」
「それ3回目」
「だって、カカシくんが寝させてくれなかったもの」

名前さんは、俺の胸に顔を埋めながらクスクスと笑った。
昨夜、俺は名前さんの可愛い反応に我慢できずに何度も何度もその体を抱いた。今までの片思いの反動と言うべきか……正直やり過ぎた。

「俺としては、まだ足りないんだけど」

信じられない、と言うように名前さんは俺を見上げた。

「そんな不満そうな顔しないで。私の体が保たないわ、私は忍じゃないもの」
「名前さん俺のこと好きって言ってくれなかった」

名前さんは、目をパチクリさせた後、またクスクスと笑った。

「変わらないね、カカシくん」
「で、好きって言ってくれないの?」
「あぁ、お腹空いた」
「ねぇ」

名前さんは、布団から出て俺のTシャツを裸の上にサラリと着た。子供の頃は、名前さんの方が背が高かったのに、今は俺の服がブカブカになっている。Tシャツから伸びる白い脚がやけに色っぽくて、また俺は元気になりそうだ。
名前さんは、机の上に置いてある小さな袋を見つけた。

「あ、ビスケットだ。手作り?」
「うん、教え子の女の子が作ってくれた」
「食べてもいい?」

俺が頷けば、可愛い包装を丁寧に開いて少し形のイビツなビスケットを1枚出した。美味しそう、名前さんは呟いて俺がいまだに寝転がるベッドに腰掛けた。

「はんぶんこしようか」
「うん、いいよ」

名前さんが割ったビスケットは、やっぱり大きさが均等ではなくて。少し見比べてから、やっぱり大きい方を俺にくれた。

「お腹空いてるんでしょ?大きい方食べなよ」
「いいの、ダイエット中だから」

小さい方をかじる名前さんを後ろから抱きしめて、俺もビスケットを頬張った。やっぱりビスケットは甘くてサクサクする。

「カカシくん、美味しいね」
「うん」

俺は、やっぱりここで名前さんに恋に落ちた。

「好きって言うまで諦めないから」
「え、怖い」
「名前さんが悪いんだよ?素直じゃないから」

ビスケットを食べ終わった名前さんを、再びベッドに引き摺り込んだ。Tシャツを捲し上げれば、俺が噛み付いた跡が沢山残っている。拗らせた分、しつこいくらいに昨夜の俺は噛み付いていた。
その上に重ねるようにキスを落として行けば、名前さんは甘い息を漏らした。

「名前さん、好き」
「ん、カカシくん……」

潤んだ瞳で俺を見つめる。問い掛けるように、眉を少し上げれば、名前さんの唇が、俺が求める形に動いた。

「声、声に出して」

思わず必死になる俺に反して、意固地な名前さんは、イヤイヤと首を横に振った。お預けを食らった俺は、落ち込むどころか更に必死になった。
昨夜見つけた名前さんの弱い所を攻めながら、俺は何度も懇願する。それでも、名前さんは首を横に振るばかり。

名前さんになら、振り回されても良いよ。でも、その分、意地悪するからね。

そう囁きながら、名前さんの体と自分の体をひとつに重ねた。

うん、お願い、そう可愛い声が聞こえた気がした。





2月28日 end.

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