アカデミーの帰りに





私がアカデミーに入ったばかりの幼い頃。アカデミーの遠足で花束を作った。お母さんはお花が大好きだったから。

広いお花畑を見て、あぁ、お母さんに花束と花冠をプレゼントしようと思い付いた。そう思ってからは早かった。
お母さんの好きな色の花を集めて、花冠を編んだ。残った花とお父さんの好きな色の花を足して花束を作った。
お母さんの喜ぶ顔を想像したら、嬉しくて嬉しくて、戻ったアカデミーで解散をすると一目散に家に走った。
ずっと向こうにある家の庭先でお母さんの姿が見えて、私は更に速く走った。

ーお母さん、これプレゼント!ー

心の中で何度も練習をした。
でも、あれだけ速く動いていた足が、ふと急ブレーキを掛けて止まった。
だって、お花の手入れをするお母さんの隣に、火影のお仕事で忙しい筈のお父さんがいたから。いつも見ているお母さん達の雰囲気とは違ったから、私は近付けなくなってしまった。

お母さんの隣にしゃがみ込んだお父さんは、お母さんと一緒にお花の手入れを始めた。
お父さんが何かを話しているらしく、お母さんは頷きながら時折笑ってお父さんを見上げていた。

お父さんは無口だ。家の中では、専ら私が喋ってお母さんが相手をしてくれて、お父さんは優しく微笑みで返事をする。普通に話もしてくれるが、私達みたいにペラペラ喋ったりはしない。
家でお父さんと2人きりの時も、お父さんは私の話を聞くばかりで向こうから話すことはほとんどない。
だから、お母さんと二人の時はこんなに饒舌だなんて知らなかった。知らないお父さんを見て、私は戸惑ってしまった。

どんな顔をしてお父さんを見れば良いか分からなくて、ズリズリとサンダルで地面を擦りながら、私は少しずつ家に近付いた。お父さんは火影だから、私の気配なんてすぐに気付く。立ち上がると私に向かって、よ!と手を上げてくれた。
それを見て、まだ幼かった私の戸惑いなんてすぐに消えて、重かった足は軽くなりまた走り出した。お母さんも気付いてくれて、いつもの笑顔で手を振ってくれた。

「おかえり」
「ただいま!お母さん、これプレゼント!」

練習したからセリフはすんなりと出た。私の右手の花冠と、左手の花束を交互に見て、お母さんはまぁ、とっても綺麗だわと言ってくれた。

「お母さんはお姫さまだから、あげるの」

私がそう言うと、お母さんは驚いた様に目を見開いた。
その時の私は、お母さんが綺麗と言ってくれた事が嬉しくて気にも留め無かった。今思えば、私がお姫様と言い当てたのにビックリしてたんだろう。私がお母さんの髪に戴冠し、お母さんの綺麗な指に花束のリボンを絡ませると、本当にお姫様みたいに可愛かった。

「ねぇ、お父さん!」
「ん?」
「お母さん、とってもかわいいね!」
「あぁ、そうだね」

いつもの無口なお父さんに戻った事にも気にせず、私はお母さんをひたすら褒めちぎった。お母さんは、なんだか照れちゃうわと言いながら笑ってくれた。

「あ!そうだわ」

お父さんに花束を預けて、お母さんは庭の花を器用に摘んであっという間に花冠を作り上げた。自分で作ったものよりも、ずっと綺麗で私は感嘆の声を上げた。
お母さんは、その花冠をお父さんと同じグレーで少し癖毛の私の髪にのせてくれた。

「私達にとって、貴女は大切なお姫様よ」

お父さんが後ろで微笑んでいて、私の胸は凄く暖かくなった。花冠のお花も、お母さんに大事にされているから綺麗なんだと思った。

「さてと、父さんは仕事に戻るよ」

お父さんは、そう言うと私とお母さんの間に割り込んできた。お母さんのの方を向いて、私に背を向けながら火影の羽織を翻す。目と鼻の先に六代目火影の刺繍がキラキラと輝いていて、綺麗だなと思った。

「じゃあ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
「お父さん、ガンバッテね!」
「うん」

庭を出たお父さんを見送ってから、お母さんを見れば心無しか凄く恥ずかしそうに、でもそれを隠そうとしていたから不思議に思った。お母さんは、気持ちを隠さないで素直に表現する人だから。

大きくなって分かったけど、あの時お父さんはお母さんのにキスをしていたんだよね。子供の私に見えないように。やっぱり昔から、お父さんはお母さんにベタ惚れだったんだ。

「そう言えば、クッキーを焼いたのよ。食べましょう」
「うん!」

花冠を被った私とお母さんは、手を繋いで家の中に入った。家の中はふんわりと甘い香りが漂っていた。私はクッキーとジュースを準備して、お母さんは花束を花瓶に差す。
クッキーを食べながら、私はアカデミーのテストで満点をとったこと、お父さんに手裏剣術を教えて貰ったお陰で演習を褒めて貰えたことを話した。お母さんは、そうそうと口を開く。

「お父さん、ちょっと拗ねてたわよ」
「え!?なんで?」
「あなたからプレゼントを貰えなくて寂しかったのよ」

私にはお父さんが拗ねているようには見えなかったのに、お母さんはちゃんと見抜いた。
お母さんは、花束からお父さんの好きな色とお母さんの好きな色の花を1輪ずつ抜いて、お母さんが作った花冠から私の好きな花を1輪抜いた。

「これで押し花を作って、栞をお父さんにプレゼントしましょう」
「いいね!この花がお父さんで、これがお母さん、これが私だね」
「えぇ、そうよ」

出来た押し花を綺麗な紙に貼って、栞を作った。
仕事でクタクタになって帰って来たお父さんにプレゼントすれば、お父さんはお母さんと私を一緒に抱き締めてきた。とても力が強くて息も出来ないくらい苦しかったけど、そんなの気にならないくらい私も嬉しかった。

「ありがとう。大事に使うよ」

凄く嬉しそうなお父さんを見て、やっぱりお母さんはすごいなと私は改めて思った。私も、いつかお母さんみたいにお父さんを喜ばせられる人になりたいと思った。


「随分懐かしいな、よく覚えてるね。あの栞は今も使ってるよ」
「そうなんだ!嬉しい!ねぇ、早く続き聞かせて!そこからいつ再会したの?」
「え?まだ聞くの?」
「当たり前じゃない!」

お父さんは、少し笑みを含んだ溜息を漏らし話し始めた。

子供だったお父さんとお母さんは、大人になっていた。



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