お父さんとお母さんの再会
俺と名前が再会したのは、それから何年も経った後だった。
当時、まだ子供だった俺も背も伸び、すっかり大人になって暗部の隊長を務めるようになっていた。
あの日から、名前を忘れることはなかった。でも、俺も忙しい身だったしね恋い焦がれる程ではなかったよ。時折思い出しては、元気だろうかと思うだけだった。別に好きじゃなくなった訳じゃない、ただ、仲間も先生も失った当時の俺にはそんな資格はないと思っていたんだ。
いつものように三代目に呼ばれて、任務を言い渡される。
この日は、単独での任務を任されることになった。勿論、綿密に計算を立てたから任務は滞りなく終わった。
後は里に戻って、三代目に報告をするだけだと少し急ぎ足で帰っていた。
その時、悲鳴が聞こえた。
思わず足を止め、辺りを窺った。
俺ひとりで勝手な行動は出来ない。悲鳴の聞こえた方へ慎重に歩みを進めると、数人の侍と3人の一般人が倒れていた。傍らにいた1人の忍がやったのは確実で、その忍は倒れている女性の1人を抱えた。
その瞬間、俺はその忍の前に飛び出していた。
分析が完了した訳でも、勝てる算段もついた訳じゃなかった。それなのに、体が勝手に動いたんだよ。あの時は自分でも驚いたね。
「何だ、まだいたのか。ふうん、木ノ葉の暗部か。相手してやるよ」
「…………」
風が互いの髪をそよがせた一瞬のことだった。
右腕には敵の亡骸、左腕には女性を抱き止めていた。
亡骸から右腕を引き抜いて、血を払ってから女性を丁寧に地面に寝かせた。気を失っているだけで怪我はないようで安心したよ、他の人達も怪我は負っているが命に別状はなさそうだった。里に応援を頼み、応急手当をしながら仲間を待つことにした。手当をしながら、俺は夢か現実か分からずに混乱していたよ。
なぜなら、目の前にいる女性は名前だったんだ。
こんな再会をするなんて思わなかった。俺の中の名前は子供のままだったけど、目の前の女性は紛れもなく成長した名前だった。
「隊長、お待たせしました」
「あぁ、ありがとう」
後輩達が来てくれて、俺はやっと冷静になることが出来た。
「隊長、この人達は……」
「昔、木ノ葉で護衛もした事があるお嬢さんとそのご両親だ。怪我もしている。里の病院に連れて行こう」
「はい」
里に着いてちゃんと治療を受けさせることができてホッとしたよ。名前は、気を失っていただけだったから病室のベッドで目が覚めるまで寝かせることになった。
一通りの仕事を終え、俺は暗部の詰所に戻り、普段の格好に戻った。これで家に帰ればいいのに、俺は心配になって再び病院に立ち寄った。暗部の優秀な後輩達が護衛をしているから、何も心配はないのにね。
え?うん、そりゃ、母さんが好きで堪らないからね。気が気でなかったんだ。
名前がいる病室の前に立った時、部屋の中の気配が起きていて胸を撫で下ろした。無事だった。それだけで俺は十分だった。
もちろん会いたかったよ、でも、名前は俺を知らない。それに、名前と俺は人生の中で交わる点なんてもう存在しないと思っていたからね。
満足した俺は踵を返して、家に帰った。もう会うことはないであろうと勝手に思っていた。心の中でさよならを告げた。
状況が変わったのは、それから3日後だった。
その日は、三代目の護衛にあたっていた。
「明日からお前に特別任務を託す」
「はい」
翌日、指定された場所に向かった。今日から、木ノ葉病院を退院する人間を里内でひと月、家に帰すまでの間を護衛する命を受けた。
火影が直接暗部を護衛につけるなんて、しかも隊長をしていた俺を、一体どんな人物なのだろうか。指定された病室をノックすれば、中年の男の声がした。
「失礼します」
ドアを開けて頭を下げる。
顔を上げるよう促され、顔を上げれば並べられたベッドに横たわる中年夫婦と、その隣に佇む女性がいた。時が止まった気がした。その女性は、名前だったからだよ。その中年夫婦は、名前を養子に迎えた新しい両親だった。
「初めまして、今回の任務を担当させて頂きます」
再び頭を下げれば、名前の父は微笑みながら俺を見ていた。優しい夫婦から流れる雰囲気は、名前にそっくりだった。いや、名前がそっくりなんだろうな。遠い親戚とは言え、血が繋がっているんだと不思議に感じたよ。
「護衛をお願いしたいのは我々ではなく娘の名前なんですよ」
「娘さんを……」
「ええ、狙われているのは娘でして、ひと月待ってから里を出たいと思ってましてね」
お父さんは、声を潜めて言い難そうに口を開いた。
「実は、娘は血継限界の血筋で、それで幾度も狙われているんですよ。19歳が終わるまでに、発現しなければ一生出てこない不思議な血継限界なんです。それで、娘の20歳の誕生日が1ヶ月後にあるものですから、もし、発現がなければ一緒に帰ろうと思っています」
「もし……発現すればどうするおもつもりですか?」
不躾な質問だとは分かっていた。でも、俺は聞かずにはいられなかったんだ。
「その時は、娘が幸せになるカタチをとります」
お父さんの答えを聞いて、ホッとしたよ。もし、血継限界が出れば殺すつもりなんじゃないかと思った。忍でない人間が血継限界だとバレれば、周りの人間に殺されることもあるからね。忍であれば、有能な武器として生かされるのだけど。
「我々は見ての通り、まだまだ入院をしなければならないんでね。宜しく頼みます」
「かしこまりました」
名前の方を向いて頭を下げると、名前も会釈をした。
「よ、宜しくお願いします」
「責任を持って貴女を守ります」
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面会時間が終わり、名前の宿に共に向かった。本来、3人で泊まる予定であったであろう部屋は名前ひとりには広く、酷く寂しい部屋に思えた。
「おやすみなさい」
「お疲れでしょう。安心して、ゆっくりお休み下さい」
「ありがとうございます」
名前が眠ったのを襖越しに感じて、やっとホッと息をついた。
不思議な気分だった。それと同時に、幸せな気分でもあった。
この任務が終われば、また名前とはお別れだ。この1ヶ月、大切にしていこう。そう思いながら、俺は名前の寝息に耳を澄ませながら夜が明けるのを待った。
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