お父さんとお母さんの出会い



出会ったのは、まだ俺達がお前より少し歳下の頃だった。

俺と名前は、四代目のミナト先生が引き合わせてくれたんだ。
当時、暗部だった俺はミナト先生に呼び出されて暗部装束のまま執務室に向かった。ミナト先生は、いつもの優しい笑みを浮かべたまま椅子に座っていた。

「カカシ、特別任務を言い渡すよ」
「はぁ……」
「悪い任務では無いからね、安心して。先日、ある犯罪者集団によって潰されてしまった一族をカカシも知っているでしょう?あの一族の中で、唯一生き残ったお姫様の護衛任務だよ」
「わかりました」

お前には言ってなかったけど、名前はお姫様だったんだよ。母さんは、古い血筋の一族なだけで、別にお姫様じゃないと言ってたんだけどね。
犯罪者集団は、当時唯一、子供で女だった名前を攫うために一族を潰したんだ。そこで、名前を里は匿うことにしたんだよ。

「彼女を連れてくるね」

四代目が席を外して、連れて来たのは俺と同じ歳位の女の子だった。

「名前さん、貴女が木ノ葉にいる間、彼が貴女を守ります。若いけど、実力はピカイチですから安心して下さい」
「忍さん、宜しくお願い致します」
「じゃあ、お姫様を頼んだよ」
「はい」

面を付けて刀を背負った俺に、名前は少し怯えていたが微笑んで俺に挨拶をしてくれた。もうこの笑顔を見た時には、俺は名前を守らなければと決意していたよ。ま、今思えばね!

そこから、名前と俺の不思議な時間が始まった。
俺が護衛任務をしている一方で、別の部隊が殲滅任務を行っていた。それが完了するまで、名前は軟禁生活を強いられていた。まだ誰が狙っているか分からないからね。
名前は、俺と一緒で本が好きな娘だった。俺は頼まれた本を借りてきては、名前が読んでいる間邪魔にならないように過ごしていた。

「忍さん」
「名前様、何ですか?」
「一緒に本、読みましょう!」
「私は任務中なので……」
「火影様には黙ってますから一緒に読みましょう。ひとりだと、なんだか息が詰まってしまいそうです」
「……絶対に秘密ですよ」
「えぇ、こう見えて口は堅いの」

俺が気の毒に思っていたのが伝わったんだろう、名前は気丈に振る舞っていた。時折、顔を出す四代目にもいつも笑顔でね。
本当は護衛任務中、あまり対象者とは交流したりしてはいけないんだけど、毎日一緒にいるものだから、俺と名前はいつの間にか仲良くなっていた。当時、仲間を失った自責の念に駆られ暗部で血生臭い生活を送っていた俺には、余りにも名前の笑顔は甘すぎる良薬だった。笑顔を向けられる度に、何かが許されて受け入れて貰えた気がしたんだよ。





護衛任務も2週間経った日の朝、名前は外に出て里を見てみたいと言った。今まで要望もワガママも何も言わなかったから少しビックリしたよ。四代目には、安全の為に外には行かないようにって命じられてたけど、名前の望みを叶えてやりたかったんだ。

「では、夜になったら行きましょう。秘密ですよ」
「ありがとう!忍さん!」

これが初めてのデートになる筈だった。
でも、俺達が2人きりで出掛けたのはもっと後だった。何故なら、この日の昼に名前は里を出ることになったんだ。

どうしてって、名前はもともとお姫様だからね、いつまでも隠れ里に置いておく訳には行かなかったんだよ。遠い親戚の養子になって行ったんだ。お前のお祖父さんとお祖母さんの家だよ。名前は、それを分かっていたから叶わないワガママを言ったんだろうね。
当時の俺は、どうしてと疑問に思っていたけれど、今では名前らしいと思うよ。

「短い間でしたが、ありがとうございました」
「私こそ、ありがとうございます。一生、この任務を忘れることはないでしょう」

俺がそう言うと、名前は鼻の頭を赤くして笑った。潤んだ瞳を見て、俺は全てが認められた気がしたよ。
そして、名前は俺の素顔も名前も知らないまま、木ノ葉の里を去って行った。

俺にとって、今でも1番特別な任務は名前の護衛任務だよ。たった2週間のことだったけど、その短い時間で俺は名前の事を好きになっていた。

でも、俺と名前は任務遂行者と対象者、だから、一歩踏み込んではいけない。それに、大切な仲間を救えなかった俺は幸せにはなっていけないんだと思っていた。
この恋は、俺の中だけの秘密にしていこう、遠く消え行く名前の背中を見ながらそう決意したんだ。



「何でお前が悲しそうな顔をするのよ」
「だって……」

だって、お父さんとお母さんは、すぐに惹かれ合って恋人になったものだと思っていたから。折角出逢えたのに、想いを告げることもなく別れてしまうなんて寂しすぎる。
お父さんとお母さんは子供の私でも入り込めないと思うくらいに仲良しだもん。

「そう言えばね、お父さん」
「ん?」

ふと、かつて私が見たお母さんとお父さんが2人きりの時を思い出した。


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