プロローグ



「ねぇ、お父さん」
「ん?何なのよ」
「お母さんとの馴れ初め教えて?」

お父さんは、私の頭をぽんと撫でてそんなことは気にしなくていーの、と笑った。あ、誤魔化してる。照れてるんだ。お母さんが言ってたもの、お父さんは照れると頭を撫でて誤魔化すのよって。ほんとお母さんは、お父さんのことなら何でもお見通しなんだよね。

「私だって、もう上忍になるし、子供じゃないのよ」
「そうだった。お前は優秀だもんな」
「そりゃ、お父さんの子供だもの」
「そうだな、でも、馴れ初めは照れるでしょうよ」
「ウフフ。ね、教えてよー!お願いお願い!」

私がお父さんに抱き着いて懇願すれば、大きな溜息を吐いて窓の外を眺めた。

「んー、そうだなぁ」
「うんうん!」
「とりあえず、昼飯食べるぞ」
「けちー」

お母さんから教えてもらったお父さんの好きな味噌汁は私が作って、お父さんはお母さんがよく作ってくれた私達の好物を作ってくれた。
料理を並べて、いただきます。と言えば、お父さんはニコニコとしながら味噌汁に口をつけた。お父さんはほんとに味噌汁が好きなんだから。

「美味しい?」
「うん、うまい」
「お母さんと私のどっちの方が美味しい?」
「うーん、母さんかな。でも、前よりも上手になったな」
「やっぱりお父さんって、お母さん大好きだね。ここは普通、娘の方が美味しいってお世辞でも言うもんでしょ」
「そうなの?」

やっぱりお母さんには敵わないなと思った。今度は、私がお父さんの料理を食べる。口の中いっぱいに食べれば、幸せな味が私を満たした。でも、なーんか足りない。

「美味しい!けど、やっぱりお母さんが作ってくれた方が美味しいなぁ」
「そこは、父さんの方が美味しいって言うもんでしょ。ま、母さんは料理上手だからね」

お父さんは食べるのが早い。
でも、私やお母さんと一緒の時には合わせてくれる。よく言われる、お前は母さんと一緒で食べるのがゆっくりだねって。そう言われると私は嬉しかった。
お母さんは、優しくて綺麗でいつもいい香りがした。お母さんは私の自慢なの。きっと、お父さんもそうだと思う。お母さんが私に向かってニコリと笑う度に、お父さんがお母さんを大好きな理由が分かる気がした。だから、些細な事でも、大好きなお母さんと一緒って言われると嬉しい。

「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした!」

食器を洗って、エプロンで手を拭きながらお父さんに擦り寄る。ソファーに座るお父さんは、本から目を離さずに私の頭を撫でた。
お父さんは凄い。忍としても、お父さんとしても、夫としても優秀なの。里のみんなも、お母さんも褒めてたもの。もう火影の座を退いたけれど、それでも修行をつけて貰うと圧倒的な強さで私は全身に泥を被って終わる。ま、上忍になりたての私じゃあ火影様になんて敵わないよね。私が上忍になれたのは、お父さんが上忍になった年齢よりも3年遅れ。でも、少しずつお父さんに近付いていると思うの。

どうしてこんなにお父さんは強いの?とお母さんに聞いたことがある、そしたらね、貴女やお母さん、里のみんなを愛しているからよと微笑みながら答えてくれた。
大切な人を守る時、人は本当に強くなれるのよ。その時のお母さんの上がった口角がとても綺麗で、私は子供ながら惚れ惚れしたのを良く憶えている。

「さーて、お昼も食べたし、教えてよー!」
「あれ、忘れてなかったの」
「当たり前じゃん」

お父さんは、本をパタリと閉じて仕方ないなぁとつぶやいた。私は舞い上がって、お父さんの隣に体操座りをする。
なーに、気合充分じゃないのとお父さんは茶化して来た。けれど、私の期待に膨らんだ胸が分かったのか、お父さんはこっちに向き合うように胡座をかいた。

「んー、何から話そうか」
「じゃあ、出会いから!やっぱり最初はそこじゃないと!」

お父さんは、あれは……と話し始めた。

馴れ初めを話すお父さんは、いつもの母さんって呼び方じゃなくて、お母さんの名前を呼び始めたから、私はドキリとしてしまった。


私の知らないお父さんとお母さんがそこにいた。



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