紅差し指・07



共に帰宅をして、いつも通り名前が台所に立つとカカシも隣に並んだ。

「どうしたんですか」
「手伝わせてよ、邪魔なら他のことするけど」
「……別に邪魔じゃないです」

カカシは、帰宅の時間帯が被ると料理の手伝いをしてくれる。カカシは仕事を家庭に持ち込まないタイプの男で、家に帰っても仕事の続きをすると言うことはない。
名前の帰宅がどうしても遅くなった時には、簡単なものだが作ってくれている日もある。カカシの忙しさは異常なものだから、本当に時たまなのだが。火影の仕事で忙しいだろうに、とその度に名前は罪悪感にかられていた。

こうして肩を並べて料理を作ろうとしたり、家事を見つけてやろうとしてくれたりするのは、きっとカカシなりの努力なのだろう。夫婦になる為の努力。

「先輩、あのー」
「ん?」
「疲れてると思いますから、無理しなくていいんですよ?」
「ああ、ごめんね。俺がやりたいからやらせて貰ってたけど、やっぱり嫌だった?人のやり方があるもんね」
「いえ、そう言う訳ではなくって」

自分でも何をしたいのか分からない。
ただ、何となくカカシによって自分の居場所が奪われて行く気がして反発してしまうのだ。何とも面倒臭い自分の態度。

それなのに、カカシは決して諌めることもなく名前を尊重しようとしてくれている。それが分かってしまうから、尚更矮小な自分を惨めに思う。

「俺は、自分の飯より名前が作ってくれた飯の方が好きだしね。名前のやりたいようにしてよ」
「えっと……」

結婚してからカカシに反発することが癖になっていた。カカシが右といえば左と言ってきた。

「……先輩って優しいですね」
「……そう?」
「はい」
「そっか」

カカシを見上げれば、目尻に皺を作っていた。なんと素直なおじさんなのだろう。名前は笑みを含んだ息をこぼした。

「えっと、お手伝いしてくれますか?」
「ん、勿論」

いつも思う。カカシは、人をサポートするのが上手い。これも里の英雄のナルト達の先生をしていたからか、火影の素質なのか。自分が経験したこともないことを、数え切れない程にしているからかもしれない。

白くて長い指。細長いのに、節々がしっかりしていて美しさの中に男らしさがある。
きっと、沢山の人を守って来た指。
まだ、私を触れてきたことのない指。

この指は、どんな風に女性に触れるのだろうか。

「おーい」
「……は、はい!」
「これは、どう切ったらいい?」
「えっと、それは私が切ります」
「りょーかい」

変な事考えていないで、料理を作ろう。昨日、研いだばかりの包丁を手に取り、カカシが洗ってくれた材料をまな板に横たわらせる。

「痛……」
「どうした!?」

クナイでもメスでも指なんて切ったことないのに、人差し指をざっくりと切ってしまった。名前は自分の不器用さに落胆する。はあーあ、と名前が溜息を吐いていると隣のカカシが急に慌て始めた。

「大丈夫!?」

どうしたんですか?と言いそうになったが、どう考えても自分のせい。

「平気です」
「平気なワケないでしょ、凄く血が出てるよ、救急箱取ってくるから!」
「大丈夫ですよ、先輩」

慌てて救急箱を取りに行くカカシの後ろ姿を見ながら、名前はチャクラを練るのを止めた。医療忍者なのだから、この程度の傷一瞬で直せるのだが、取りに行ってくれたカカシを止めるのも野暮な気がした。

「菌が入ったら困るでしょ」
「ありがとうございます」

椅子に座らされ、大人しくカカシの手当を受けることにした。
恐らくだが、この人は名前が医療忍者だと言うことを忘れている。それだけ慌てているのか、仕事で疲れているのか。かと言って指摘するのも何となく可哀想で、名前は何も言わずに受け入れる。
消毒液をかける為に、カカシは手のひらに脱脂綿を広げ、名前の指を乗せた。カカシの指は思っていたよりも温かく柔らかい。初めて触れてきたと言うのに、ロマンチックでも何でもない状況だ。
血で汚れた指が消毒液で綺麗になり、大袈裟なほとに大きな絆創膏で巻かれた。

「飯は俺が作るから」
「大袈裟ですよ。指サック着ければ水仕事大丈夫です」
「名前はそこまでしなくていいの。俺の前では、ね?」
「……はい。お言葉に甘えて」

この人は、きっと物凄く不器用だ。





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