次はシラフで
酔っ払った彼女は、タチが悪い。
「無理するなよ?」
「ん!へーき!へーき!」
カカシの心配を余所に、名前は目の前のグラスを空けていく。細い喉が、グイグイと動いて、カカシの目は釘付けになった。
名前は、首まで真っ赤にしてカカシの隣に座るとベタベタとカカシの腕に絡みつく。
「やっぱダメ、帰るよ」
「えー!?」
嫌がる名前を無理やり店から引きずり出して、カカシは帰路につく。
会計で出たお釣りを、適当にポケットに突っ込んだせいで小銭を落としてしまった。カカシは、落ちた小銭を拾うためにしゃがみ込む。
「隙ありー!」
しゃがんだカカシの背中に、名前がピッタリとくっつく。
「上忍が中忍に背中とられるなんてー!まだまだですね!」
「どいて」
「やーだもん。おんぶして」
「はぁ、仕方ないね」
「やっぱりカカシ先輩は優しいなー」
調子乗るなよ、と言いながらカカシは名前を背負う。名前は、体をくっつけて、首筋に顔を埋めるとマシンガントークを始める。
それに、カカシはうんうんと相槌を打つ。
「お酒買って、先輩の家に行きましょう。飲み足りないです」
「俺は満足。名前の家まで送るよ」
「えー!やだやだ!」
酔っ払った名前は、タチが悪い。
周りに誰がいようが、先輩、先輩と連呼して今みたいに甘えてくる。それを見て周りは冷やかして来るものだから困ったものだ。
「先輩、あのね」
「ん?」
「先輩の背中、大好き」
好きなのは背中だけ?そう言いそうになって、カカシはグッと堪える。
「あんまりからかうなよ。名前、着いたよ」
「本当だもん!」
駄々をこねる名前のポケットから鍵を出すと、カカシは玄関を開けて家の中へ入る。ベッドに名前を座らせると、コップに水を入れて飲ませた。
「寝なさいよ」
「はーい」
ここまで来たら、名前はもう素直になる。
カカシは、名前の額当てや手甲を外してテーブルに置いてやった。それを合図に、名前は子供みたいにベッドへごそごそと入り込んだ。
「じゃあ、またね」
カカシが名前の頭を撫でると、名前は満足そうに目を閉じた。それを見て、カカシは部屋から出ていこうとする。
「カカシ先輩、待って」
「……ん?」
目を開けて、カカシを見ながら名前は微笑む。
「背中だけじゃなくて、先輩の全部が好きですよ」
少し間をおいて、
それさ、素面の時に言ってくれない?
と言ってみたら、名前は既に夢の中。
「俺も、全部好きなんだけど……」
そんな呟きは、名前に届く訳もなく。
カカシは、静かに名前の頬にキスをすると部屋から出ていった。
「今度は、酒飲ませないでいけるかな」
そろそろ、素面の彼女の口からそれを聞きたい。
いつも、ああやって心を掻き乱す。気付けば、名前に惹かれている自分にカカシは困っていた。
「可愛い後輩にしか思ってなかったのにな……」
本当に、酔っ払った彼女は、タチが悪い。
次はシラフで end.
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