次はシラフで2


「カカシ先輩!」

待機命令が出ていたカカシは、イチャイチャパラダイスを閉じて顔を見上げた。後輩の名前が、普段以上の満面の笑みで目の前に立っていた。

「どーしたの、ここ上忍待機所よ。お前、中忍でしょ」
「先輩、報告があります!」
「ん?」

名前は、キラキラした目でカカシの手を握った。自分よりも小さくて柔らかい感触に、カカシの神経が手に集中する。

「昇格したんです!上忍になったんです!」
「え?そうなの?おめでとう」
「カカシ先輩のお陰です!」
「名前の努力が認められたんだよ」
「ありがとうございます!」
「んー、今夜は空いてる?」
「はい!?」
「お祝いしてあげる」
「わーい!」

名前が、バンザイをしながら跳びはねるようにジャンプをした。
これから任務なので終わったら、先輩を迎えに行きます!任務行かないで下さいね!と頭をポンと撫でながら言って、名前はその場から去って行った。

さて、どこまで読んだかなとカカシは本を再び開く。しかし、文字は滑っていくばかりで頭に入って来ない。こないだ見つけたオシャレなお酒の美味しい店に連れて行ってあげようかな、なんて名前の喜ぶ顔ばかり考えていた。
すると、アスマが隣にドカリと座り、ソファがキシリと音を立てて軋んだ。

「なーに、あの子がお気に入りの子か?」
「何よ……」
「なかなか可愛いんじゃねーの。カカシに纏わりつく女達にはいないタイプだな。素直な感じだ」
「……素直過ぎるくらいだよ」

そう、いつだって名前の素直な笑顔に癒やされて来た。素直過ぎて心配になる位に。

「俺もお呼びだな、じゃ、頑張れよ」

アスマは、カカシの頭をポンと叩いて立ち上がる。名前と違って何の有り難みも何もないなと、カカシは心の中で呟いた。
再び本に目線を戻し、考え事をしていれば待機解除が言い渡された。しかし、名前はまだ任務らしく戻って来ない。ま、いいかとカカシは本を読み続けた。
ページが十数ページ進んだ所で、ドアがバンと大きな音を立てて開かれた。これまた満面の笑顔の名前が立っていた。

「先輩、約束通り任務行かなかったんですね!」
「お前、命令されて任務行かない奴がいると思ってるの。無かっただけだよ」
「それは、良かったです!さ、行きましょー!」

名前が大型犬のようにカカシの腕をグイグイ引っ張って、待機所から出て行く。いつも名前が先を行って、カカシが付いていく。だが、今夜ばかりは彼女のために自分がリードしなければと歩みを速めた。 

「まー、名前。今夜は酒酒屋じゃないよ」
「え?」
「お祝いなんでしょ?」
「は、はい!」

カカシが腕を名前に差し出す。
名前が不思議そうな顔をしてから、まるで子犬のように喜んで腕に飛びついた。

「わぁ、素敵!」

カカシが連れて来たのは、オシャレで大人な雰囲気のレストラン。普段、居酒屋ばかりだから名前はカカシがデレデレしてしまいそうなほどに喜んでいた。

「好きなの頼みな」
「えーっと、どうしよう」

どんな料理でも美味しいと喜ぶが、今夜はいつも以上に幸せそうな彼女に来て良かったと思った。

お酒も進み、カカシもほろ酔いになって来た頃、名前はほぼ出来上がっていた。とは言え、大人びた雰囲気の店に名前は大人しくしていた。

「今夜のお酒は格別です」
「いやー、名前が上忍になるなんてね」
「これで、またひとつ先輩に近付けました!」
「俺に?」
「はい、だってカカシ先輩は私の憧れですから」
「そりゃ、嬉しーね」

慕ってくれているのは分かっていたが、改めて言われると嬉しいものだと思った。ましてや、可愛い笑顔で頬を赤らめているなんてね。

「あの、カカシ先輩!」
「ん?」
「ここも楽しくて幸せだけど、やっぱり落ち着かなくて」
「んー、二次会する?」

名前は、はい!と元気に立ち上がる。

「じゃー、どこ行くよ。酒酒屋はもうすぐ閉店よ」
「んー、じゃあ、先輩の家!」
「は?」
「一緒にお酒買って、朝まで飲みましょー!明日、お休みですよね?」
「そーだけど」
「決まり!」

名前の楽しそうな可愛い笑顔を見れば、断る事なんて出来なくて。むしろ、家の中でこの笑顔を独り占めできるなんて、好都合だと思っちゃって。途中にあるコンビニで酒とツマミを買い込むと、家に向かった。

「お邪魔します!」
「どーぞ」

静かな部屋に、名前の声が響いた。カカシは、マスクを降ろしてほっと一息ついた。

「さーて、飲み直しましょ!」

缶チューハイを開け、名前はグビグビと飲んでいく。

「ぷはー、先輩の家で飲むお酒も美味しい!」
「お前ねぇ……」

名前の酒がドンドン進み、いつもの酔っぱらいになって来た。ソファに座るカカシの膝に、勝手に頭を乗せた。

「ひざまくらー!うふふ」
「普通、逆でしょ?」
「そーですか?」

冷たい缶ビールを、名前の頬に押し付ければ、キャッキャとはしゃいで喜んでいた。

「こんなんで、本当に上忍できるの……」

勿論、任務中の名前の姿を見ていれば、上忍になってもおかしくないと分かっている。でも、可愛くてカカシはついついからかってしまうのだ。

「だいじょうぶでーす!」

名前が起き上がって、カカシに足を向けてソファーに座り込む。名前は、足で子犬みたいにカカシに可愛いキックをお見舞いする。もちろん、痛いわけもなく、むしろペットを見るような愛らしさを覚える。そんな自分は、随分と重症だとカカシは笑った。

「あ!先輩笑った!?もひかして、ドMですか?」
「お前ね……」
「日頃のつなで様へのふまんです!」
「八つ当たり?」
「そーかもでーす!」

カカシは立ち上がり、名前の足首を掴んでズルリと引っ張るとソファーに寝転がせた。名前は、くすぐったいと笑っていた。

カカシは、右手を名前の顔の横について、彼女の体に覆いかぶさる。左手で、ギュッと顔の中心に向かって頬を挟めば、名前の唇がアヒルみたいに突き出した。名前のアルコールで潤んだ瞳が、カカシを真っ直ぐと見つめてカカシは体に熱を感じた。

「カカシ先輩の素顔って、ほんとーにかっこいいですね」
「そう?」
「そうです。隠すなんて、宝のもちぐされ」
「ひど。名前がカッコいいって知ってくれたら、それでいーや」
「じ、冗談言わないでください!」

驚く滑稽な彼女の姿も可愛くて、衝動的にカカシはその唇を塞いだ。

「ん、」

アヒル口に開いていた唇に舌を割り込ませ、名前の口内を味わう。甘い酒の味が、名前の味と合わさって堪らなく美味しく感じた。名前に肩を押されたが、更に距離を縮めてキスを激しくする。
唇を離すと銀色の糸が二人を繋いでいた。突然の激しいキスに、名前は肩を上下させながら息を整える。

「ふ、ふざけんな!」

と、言われて1発殴られる

かと思っていた。いつもの彼女なら。

しかし、カカシの予想は大きく外れ、名前は息を整えながら頬も耳の先まで真っ赤にしていた。

「せんぱ……」
「名前?」
「もっと……ちゅ、して?」

理性が吹っ飛ぶとは、こう言う事を言うのだろう。

カカシは、自分が気付くよりも早くキスをしていた。舌が絡み合い、擦れ合う度に体の中に何か熱いものが溜まっていく。名前の喉から甘い吐息が聞こえ、カカシは名前の首の下に手を差し込み抱きしめ、キスの角度を深くした。

「ん……」
「はぁ……」

チュッと言う音を立てながら、唇を離せば名前の口の端からは二人の唾液が溢れ出ていた。

「名前…反則でしょ。かわいすぎ……」
「先輩……」
「ん?」
「……わ、私」
「なーに?」

カカシは、指で名前の唾液を拭ってやる。名前が下から、ガバッと抱き着いてきてカカシにぶら下がるようになった。名前がカカシの体に強く絡みつく。カカシは、立てていた肘を下ろし名前をソファーと自分の間に閉じ込めた。名前の前髪を触りながら、今度は小鳥のように唇をついばんだ。

「名前?」
「わたし……カカシ先輩の」
「俺の?」

そこ続きを聞くのも待てないかのように、カカシは名前の額にもキスを落とした。愛しくて愛しくてたまらない、そう伝えるように。

3回目のキスで、異変に気付く。

「はぁー、だからコイツは……」

酔いが回って眠っていた。濡れたタオルで汚してしまった名前の顔を拭ってやり、ベッドに寝かせてあげた。
忍らしからぬ無防備な寝顔に、カカシは愛しさが込み上げて長いキスを再びした。

「まぁ、次はシラフの時に言わせるつもりだったからさ。起きてからでいーよ」

名前に布団を掛けると、カカシはシャワーを浴びる為にその場から離れた。






「んー、喉乾いた」

カーテンの隙間から朝日が差し込み、名前の瞼に降り注いだ。
名前は起き上がり、目を半分閉じたままベッドから降りた。コップに水を注ぎ、一気に飲み干す。アルコールでカラカラになった体が潤っていくような気がした。

「はぁ、美味しかった」

水を飲んで、眠気が少し覚める。ふと違和感を覚え、周りを見渡すと見慣れてるけれど自分の家ではないことに気付く。

「あれ、私……そっか飲んだまま寝てたんだ」

リビングの真ん中に目をやれば、薄い布団だけ被ったカカシがソファーで眠っていた。寝間着を着て、無防備に顔を晒している。胸の上には、いつものエッチな愛読書が置かれていて、読みながら眠ったのだとわかった。

そう言えば、カカシの素顔を見たことがある人って殆ど居ないと聞いた。居たとしても、ほんの数秒。だから、こうやって寝顔まで拝めるなんてラッキーだと名前は思った。

「本当、イケメンだなぁ」
「んー、悪趣味だね」
「ひゃ!」

名前は、突然パチリと開けられたカカシの目にびっくりして尻餅をついた。

「起きてたんですか」
「うん、まぁね」
「先輩こそ寝た振りなんて、悪趣味です!」
「上忍なら、狸寝入りぐらい気付かないと」
「先輩だから、安心してたのに!」

ごめーんね、と軽く謝ってカカシはクローゼットからTシャツとタオルを取り出して名前に渡した。

「もう帰る?今日、休みでしょ?ゆっくりしてから帰りな。シャワー浴びていいし」
「えっと…シャワー、浴びます!」
「乾燥機もあるから、洗濯もしていーよ」
「え!?良いんですか!?」
「もちろん。って、いつもやってるじゃん」

本当は、帰らなきゃいけないと分かっている。先輩の家に上がり込んで、ベッドまで占領したのだから。でも、何故だが帰りたくなくて名前は、カカシに甘えることにした。今日は、何だか任務で汗まみれになった服を着るのも憚られた。
名前がシャワーに向かい、カカシはキッチンに向かった。

「フー」

冷たい水を喉に流し込みながら、昨夜の事を思い出す。舌が触れ合った時の快感も、可愛かった名前の表情も、抱き着いてくれた感触も覚えている。
名前が眠った後も、可愛い名前が忘れられなくて体の熱を冷ますのにかなり苦労した。
シャワーを浴びた後も少しだけ見るつもりだったのに、あまりに寝顔が可愛くて、ついついキスをしまくってしまった自分には呆れた。

名前は、かなり酔っ払っていたし覚えていないかもしれない。そう思うと寂しかったが、次こそシラフでと思っていたから却って好都合かも知れないと思った。

「シャワー、ありがとうございました」
「あー、う……ん」

胸元を首から掛けたタオルで隠しながら、名前がリビングに戻ってきた。Tシャツはワンピースのようになって、普段は忍服で隠れている白い脚が伸びていた。

「良い眺め」
「へ、変態!」
「そーだよ」

カカシは、名前の体を包み込む。嗅ぎ慣れたシャンプーと洗剤の匂いの間から、名前の香りがしてカカシの鼻腔を刺激する。髪を撫で、そして、背中に手をまわす。

「あれ、下着は?」
「任務帰りだったから…お言葉に甘えて全部洗濯してます……」
「そりゃ、良かった」
「先輩のエッチ……」
「ありがとう」
「ほ、褒めてない!」

いつも、忍服やベスト越しで感じたことの無かった名前の胸の膨らみが、今は互いの服1枚越しに感じる。想像していたよりも、柔らかく大きな感触にカカシは理性を必死に呼び戻す。

「あの、先輩……恥ずかしいんですけ」
「昨夜の事、覚えてる?」
「えっと……」
「覚えてないの?」
「すみません……」

普段と違って、大人しい名前に調子が狂うなと思いながらも、カカシは名前を持ち上げソファーに寝かした。そして、覆いかぶさると名前の頬を掴んだ。

「じゃー、教えてあげる」
「え?……ん!」

カカシがキスを落とす。一瞬で舌が名前の中に入り込んで来て、自然と名前はカカシに応えた。

「名前、顔真っ赤」
「だって……」
「思い出した?」

名前は、コクリと頷いた。

「名前からも抱き着いてくれるからさ、ビックリしたよ」
「それは……」
「それは?ちゃーんと言ってみな」
「い、イジワルです」
「俺は、いじめるほうが好きなの」

いつも自分がカカシを翻弄していると思っていたのに、今はカカシに翻弄されていた。優しいから、カカシは名前のワガママを全て受け入れてくれていたんだと気付いた。

そりゃそうだ、モテモテで近付く女の絶えない先輩が、わざわざワガママで可愛くもない後輩に付き合ってくれている時点で、優しさ以外に何もない。もう少し魅力があれば、きっと先輩だって手を出してきただろう。なんて先輩に迷惑掛けていたんだろう、と名前は罪悪感に包まれる。 

「ごめんなさい……」
「なーんで」
「ワガママ言ってばかりだから」
「謝るなら、もっと早く言うべきだね」
「本当、すみません……」
「遅いよ」

申し訳なくて、名前はカカシの顔を見る事もできなかった。怒っているに違いない。名前は、目をギュッと瞑った。
カカシは、名前を見下ろしながら苦笑いをしていた。こりゃ、勘違いしてるな。

「名前、俺の目見て」

カカシに促され、名前は恐る恐る目を開ける。予測に反して、カカシは優しく笑っていた。

「せんぱい……」
「お前、本当にバカだね」
「返す言葉もないです」

カカシの指が、名前の小さな顎を掴む。そして、今度は優しいキスを鼻にした。カカシは名残惜しそうに唇を離し、今度は頬にキスを落とす。

「俺が、どんだけ我慢したと思ってんの」
「そうですよね…ワガママ言ってすみません」
「そーじゃなくってさ。気付かない?こんなにキスまでしてるのに」
「えーと」
「はぁ……」
「すみません……」
「いーよ。それぐらいで、それも可愛いから」

カカシは、名前を起き上がらせソファーの上で向き合った。カカシの左手は名前の手を握り、右手は名前の髪をクシャクシャに掻いた。

「お前、鈍いから言うよ」
「はい」
「名前、大好きだ」
「へ?」

名前は、カカシの言葉を何度も何度も反芻する。
5回目で、やっと理解が追い付いた。
その瞬間、名前は顔から火が出るかと思う程真っ赤になり、信じられないと言う顔でカカシを見つめた。

「ほほほ、本気ですか!?」
「ん、本気」

カカシがため息をついた。

「俺がどんだけ我慢したか…名前、可愛すぎるんだよ。他の男にもあーなの?」
「あーって……」

酔っ払って抱き着いてくる所、おんぶが好きな所、意味もなく名前を呼んでくる所、先輩の背中が好きと言う所、あげればキリがないとカカシは苦笑いした。

「そ、それは先輩だから甘えちゃったんです」
「俺だから?」
「はい。私って凄く照れ屋なので、酔ってあぁしないと先輩に触れられないから…。それに、さわりたいって思うのは先輩だけです!」
「名前……」

カカシが目を見開いていた。そして、名前は自分が何を口走ったのか理解する。

「は!私ったら!」
「嬉しい……」

カカシが、幸せそうに笑っていた。こんなに笑ったカカシを見るのは初めてで、名前は素直に嬉しかった。そして、その幸せな気持ちが素直に言葉になって、口を突いて出る。 

「カカシ先輩、先輩のこと大好きです」

初めてちゃんと、言いたい事自分らしく言えた。

「俺、幸せ者」
「もっと、幸せにしてあげます」

名前は、カカシの首に腕を回した。よし!と小さく気合いを入れたと思えば、カカシの唇にキスをした。
カカシは一瞬驚いたものの、すぐに受け入れ、名前を抱き締めた。

「やっと…好きな女の子が自分のものになった訳だけど……」
「はい……」
「散々誘っといて、我慢させた罪は重いよ?特に俺に対しては」
「すみません」
「と言う訳で」
「カカシ先輩!?」

カカシは、Tシャツの中に手を入れ、名前の素肌を堪能する。柔らかい肌と細いウエストは、カカシをうっとりさせるのに
充分だった。

「今日、ゆっくりしてくんでしょ?じゃあ、良いことしよう」
「変態!」
「名前には変態だよ」

慌てる名前も可愛くて、カカシはつい意地悪してしまう。名前を組み敷いて、首筋に顔を埋めると柔らかい肌を強めに吸い上げた。唇を離せば、赤い跡が残りカカシは満足そうに微笑んだ。

「何してるんですか!?」
「悪い虫に、見せつけるの」
「心配しなくても、私はカカシ先輩のものですよ」
「可愛いこと言ってくれるね……」
「カカシ先輩、すき」
「俺も好きだよ」

カカシに包まれて、名前は幸せを噛みしめる。

「さて、お腹空いたし……」
「あ、そうですね!作ります!」
「ん?いらないよ」
「え?でも……」
「名前を食べるから……」

カカシが耳元で囁いた。

「へ、へんたーい!エッチ!歩く18禁!」
「そーだよ」

抵抗しようとしたが、カカシの笑顔を見て名前は抵抗をやめた。これからは、素直になるって決めたから。

「優しくして下さい…よ?」

「うん、お安い御用」

やっぱり彼女はタチが悪い。俺をこんなに夢中にさせるから。





次はシラフで2 end.

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