暖かいね



「折角の夜なのにロマンチックの欠片もないな」
「仕方ないです。それが私達暗部の仕事ですから」
「名前は物分りが良くて助かるよ」

カカシ隊長とのツーマンセル。月の光だけが私達を唯一照らしていた。年の瀬だと言うのに寒さは緩く、戦闘を伴わない地味な任務を行うのには丁度良かった。とは言え、夜になれば冷えてくる。
隊長の後ろに付いていくと、熊が冬眠に使いそうな洞穴の前で止まった。

「さて、今夜は帰るには遅い。野宿かな」
「そうですね」
「テンゾウがいたら良かったね」

そしたら、木遁で小屋でも建てて貰えるのにね。そう冗談めかしながら洞穴の中に入った。熊がおらず、私はほっと胸を撫で下ろす。
隊長は面を外して、歩いている間に掻き集めた枝に火をつける。
周りが明るく暖かくなって、私も面を外す。パチパチと枝の水分が弾ける音とそれが穴の中で反響する音。それから私達の声だけがこの世界を支配しているような気がした。

オレンジ色の揺らめく光が隊長の白い横顔を照らす。口布で隠されている輪郭が強調され、銀色の睫毛がオレンジに染まる。今はマントで隠されているが、隊長の無駄のないしなやかな筋肉もきっと照らされたら美しい。

「何よ、俺のこと見つめちゃって」
「あ、いえ」

バレていた。恥ずかしくなって地面に目を逸らす。焚き火の隣には、私の面と隊長の面が寄り添って並んでいる。そして、私達自身も。

「寒くない?」
「大丈夫です」
「そこは寒いって言ってくれると助かるな」
「……さ、寒いです」

たどたどしいまでの私の返事に隊長は、クスリと優しく笑った。隊長はパチンパチンとボタンを外しマントを広げる。

「2人で暖まろうか」

暗闇の先にしなやかな筋肉が見えた。隊長の手が私のマントのボタンを外し取り去る。一気に外気に晒された肌が粟立った。
寒さから逃れる為に隊長が広げてくれた空間に滑り込む。隊長の腕が私を抱き寄せ、2人の間から隙間を無くした。

「暖かいね」
「はい」

背中に隊長の体温がジワリと染み込んでくる。勇気を出して指を絡めてみれば、隊長が首筋に鼻を擦りつけて来てクスクスと笑った。

「カカシ隊長」
「ん?」
「カカシさん」
「なーによ、名前」

名前を呼びたかったんです。正直にそう言えば、隊長はまたクスクスと笑って、首筋に鼻息がかかる。


「帰ったら、ケーキ買おうか」
「良いんですか?」
「一応、明日はクリスマスって奴でしょう?せめてね、らしいことはしようよ。俺達も」
「じゃあ、七面鳥も買いましょう」
「木ノ葉に売ってるかな」
「探してみます」

耳元には愛しい人の声、肌は体温が溶け合い、目に入るのは優しい焚き火の橙。夜景の見えるレストランよりもずっと私にとってはロマンチックだ。

「名前」
「はい」
「名前ちゃん」
「何ですか?」

俺もね、呼びたかっただけ。

大切な人と一緒なら、どんな時だって素敵な夜になる。きっと同じ気持ち。そう確信してる。





暖かいね end.

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