お手伝いさんと俺A



お手伝いさんと俺A


お手伝いさんの朝は早い。
流し台に水が流れる音、まな板を叩く包丁の音が聞こえると、俺もそろそろ起きなきゃなと思う。
彼女が朝食を作り終える頃に起きても良いのだが、俺は彼女に起こして欲しい。

他人と暮らすなんてごめんだと最初は断っていたが、職を失ったばかりの気立てのいい娘がおり、彼女の再就職先が見つかるまで試しに雇ってみたらどうだと言われのだ。無職の女性を放っておくなんて火影が出来るわけもなく、流されるままに雇い入れた。

始めの1週間こそ、どうしても他人が居ることに慣れなかったが、1ヶ月も経てば彼女がいることに違和感を覚えなくなった。
パタパタと床を弾くスリッパの音、そんな音が聞こえると長年心の底に巣食う孤独を和らげてくれる気がした。

彼女は料理の出来が良いと、鼻歌をうたいはじめる。それが聞こえると、起きるのが俺は楽しみになる。もう起きているのに、俺は彼女に起こして欲しくてわざと寝た振りを続けるのだ。
また元気にパタパタとスリッパの音。あと、10歩進めば彼女は俺の部屋を3回ノックしてドアを開ける。

「カカシ様ー!朝ですよー!」
「んー、おはよ」
「おはようございます!お食事出来てます」
「はーい」

俺がベッドから降りるのを確認すると、彼女は台所に戻って行った。
俺は顔を洗い台所に向かう。台所のドアを開ければ、眠気を優しく飛ばしてくれる味噌汁の香り。炊飯器の横には、俺のご飯茶碗がスタンバイしている。

「いつもありがとね」
「お仕事ですから、頑張らないと!」

彼女は、俺の前に熱々の白飯をだして、自分の分もご飯をよそうと一息ついて席についた。

「じゃ、頂きます」
「いただきます」

朝もやはり、彼女のタイミングが合うならば一緒に食べようと提案した。彼女との朝食は不思議と居心地が良い。
朝のニュース番組で、ナルトが取材を受けている。戦後に目まぐるしく経済は回復と発展を遂げ、民間のメディアが幾つも誕生した。昔は軍事利用が主だったものが、こうして人々が自由に利用していることはとても良いことだと思う。ナルトと違って、俺は人前に出るタイプではないから取材なんてのは数える程しか受けなかった。

「カカシ様」
「ん?」
「七代目様は、カカシ様の教え子なんですよね」
「そうだよ」
「凄い世界ですね」

俺からしたら、七代目になったって可愛い教え子に見えるのだが。彼女の目からは俺やナルトがどう見えているのだろう。俺の師匠も火影だったから、単純に里の人達から見る火影と言う存在は俺の中のものとは違うのだろう。勿論、俺は四代目を火影になる前から誰よりも尊敬しているし、それはこれからも変わらないだろう。

「あ、そうだ」
「どうかしましたか?」
「急だけど来週から任務があるから、把握宜しくね」
「分かりました。1週間とかですか?」
「うーん、最低でもひと月かな。ま、俺がいない間は自由にしててよ、実家に帰ったりさ、旅行に行ったりさ。帰る頃に連絡する」
「今回は長いですね。分かりました」

この朝食がしばらく食べられなくなるのは、とても心寂しいが。
今回はどうしても外せないナルトからの頼まれ事だった。しばらく、遠くのずっと向こうにある国へ潜入調査をしに行く。
途中まで鉄道も使う予定だが、それでも移動だけで数日は要するだろう。
俺が火影の頃に交流のあった小さくも豊かな国。先代の王が亡くなってからパッタリと交流は途絶え、不穏な噂が流れてきたのだ。慎ましくも良い国で俺は気にかけていた。

「ま、そんな訳だから宜しくね」
「はい!」

食事を終えて、俺はナルトの所へ出掛けることになっていた。火影は退いたが、何だかんだ仕事は沢山ある。先代が生きているからこそ、ナルトの手伝いも出来るのだ。綱手様は見た目こそ俺よりずっとずっと若いが、もうかなりの高齢で流石にナルトも気を遣うと言っていた。が、それは言い訳で、俺の方が都合が良く使いやすいからだろう。俺だって別に若くはないんだけどね。

身支度を整えて自室を出ると、彼女は洗濯機を回していた。

「帰りは夕方になると思う」
「はい、分かりました。お昼は予定はありますか?」
「特にないよ」
「そうしましたら、お弁当持って行って下さい」
「作ってくれてたの?ありがとう」

少し大きめなおにぎりとオカズが数種類入った弁当箱が、彼女が作った弁当袋に入っている。俺はこの弁当がとても気に入っている。いつもはお願いして作って貰っているのだが、今日は急なことだったから言っていなかった。これは有難い優しさだ。

「本当にありがとね」
「いいえ、お仕事ですので」
「じゃ、行ってきます」
「お気を付けて」

彼女に見送られ、俺は家を出る。
彼女は、まだ再就職先が見つかっていない。






お手伝いさんと俺A end.

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