嘘つきは何の始まり?


エイプリルフール、年に一度だけ嘘をついても許される日。
この日だからこそ、カカシを僅かでいいからギャフンと言わせてやりたい。いつも良いように言いくるめられてるからね、日頃の恨みってやつをね、晴らしてやるの。

でもね、いい嘘と悪い嘘があるからね、嘘だと分かるものじゃないと。

木ノ葉を里抜けするの……いや、冗談でも言っちゃだめよね。
鼻毛出てるよ!……いや、マスクしてるから分かんないや。

カカシと私との関係から考えて……。





上忍待機所に行けば、カカシがひとりで本を読んでいた。周りに人がいない、ラッキー。隣に座って、眉間にしわをわざと寄せた。

「カカシ」
「ん?名前、どうしたのよ?」
「ちょっと話があるの」

カカシは、私のただならぬ雰囲気に少し表情を固くさせた。
私は、はぁと少し大袈裟にため息を吐いてカカシを見上げた。

「私ね、カカシとの子を妊娠したの」
「は!?」

狼狽えた表情に、私は心の中でケラケラと笑った。カカシがそんな情けない顔をするなんて滅多にないから。流石に突然言われたらビックリするよね。でも、すぐに嘘だって分かるでしょう?

「ごめん……私も気を付けてたのに」
「いや……」

カカシは、私の肩をがっちり掴んだ。痛いくらいに強い力で、嘘ついたから流石のカカシでも怒ったかな?

「それは……すごく嬉しいよ」
「え!?カカシ!?」

そう言って私を抱き締めてこようとして来る。カカシが重大なことを見落としていて、必死に腕を振り解いた。

「ま、待って!」
「なに?」
「なにって、おかしいって思わないの!?」
「おかしくないよ、俺と名前の子供は絶対可愛いから大丈夫」
「そうじゃなくって!」
「どうしたのよ?不安なことがあるなら、俺がサポートするから」
「ち、違うでしょー!!」

大声を出した私に、カカシはポカーンとしてしまった。それでも構わず私は、声を荒げた。

「だって、私達は友達で付き合ってないじゃない!手を繋ぐのも、キスだって友達だからしたことすらないじゃない!子供できるわけないじゃん!」

それから、少しの静寂。
カカシは天井を仰いだあと、私を見つめた。

「そっか……確かにね」
「でしょ?嘘だってすぐ分かるでしょ?」
「なんで俺に嘘つくのよ……」

明らかに頭を垂れて落ち込むカカシに、私のほうがパニックになり始めた。だって、ただの友達なのにそんなのおかしいってすぐ分かるでしょう?なんで騙されてるのよ?カカシほどの忍が!

「だって、今日はエイプリルフールでしょう?」
「あぁ」

納得した様子のカカシは、何の脈絡もなく私をソファの上に押し倒した。
顔の横に両肘をつかれて、カカシの顔が至近距離にある。友達のカカシとは、こんなに近付いたことはなくて、私の本能が危機を知らせた。

「え?カカシ、何してるの?」
「時計見て」
「とけい?」

顎で示されて、私は時計を見た。時刻は12時15分。

「嘘をついていいのは、午前中だけなんだよ?」
「そうなの!?」
「そう言う地域もあるみたいよ、つまり、名前は嘘をついちゃいけないのについた訳」
「ごめんなさい……」

素直に謝る私に、カカシはニコリと笑った。

「大丈夫、俺は名前を嘘つきにはさせないから」
「はい?」
「名前と俺の間に子供が出来たら嘘ではないでしょ?」
「は、はい?」

カカシは、マスクを下げた。突然見せられた素顔に、私の頭の中は情報過多でショートを起こした。今まで全然見せてくれなかったのに、何でこうもあっさりと。悔しいけどかっこいい。

「俺、名前を幸せにしたいからさ」
「な、何言ってるのかさっぱり……」

カカシは、白い歯を輝かせながらクスリと笑った。

「つまりさ、作ろうよ、俺と名前の子供」
「は?え?」
「嘘つきになるのと、俺の奥さんになるのどっちが嫌?」
「何言ってるのよ……」
「答えてよ、どっちが嫌?」

そんな聞かれ方をするのはずるい。どっちが嫌なんて言われたら……。

「嘘つき……です」

って、言うしかなくなるじゃない。

「良かった。俺はずっと結婚するなら名前って決めてたよ。お前が売れ残ったら、俺が貰うって決めてたの」
「失礼じゃない?私だって!」
「だって?」

人並みにはモテるんだから!と言おうとしたが、ここ数年のモテなさに気付いた。干物だと同僚達から揶揄される日々を過ごしていたことに。

「名前はモテないもんね」
「うるさい!」
「ま、それは俺の妨害工作のせいなんだけど」
「は?」

名前にたかる虫を追い払うの大変だったんだから、とカカシは笑った。今の、かなりの問題発言だよね。

「ちゃんと責任とるから、名前のこと誰よりも幸せにするから」

ヘラヘラとしていた顔は、突然キリリと締まり、カカシの本気が伝わってきた。

「自分の奥さんになら、キスしてもおかしくないよね?」
「う、うん……」
「俺の奥さんなら、俺の子供産んでくれるよね?」
「う……」

あぁ、またこうやって言いくるめられるんだ。
ムカつく、ムカつく、ムカつく……けど、何でか胸が踊ってしまう。
近付いてくるカカシを拒否することが出来ず、頬にキスを何度もされる。両足をバタバタとさせたが、カカシは全く気に留めない。

首筋にもキスをされた瞬間に、待機所のドアが開いた。
私とカカシと、それからドアノブに手を掛けたまま固まるアスマ。

「邪魔したな、わりぃ」

ドアは勢い良く閉められ、アスマの後ろ姿は一瞬で消えた。
私は、違うの!と否定が出来なかった。

「ここは邪魔が入るから、俺の家行こうか」

カカシに抱き締められて、一瞬でカカシの家のソファに押し付けられていた。
カカシの冷たい手が、服の中に入って来て私の敏感な場所に触れた。息が詰まる。カカシの唇がこめかみに触れて、耳たぶにまで滑り落ちる。

「ずっとこうしたかったんだから」

掠れた声で囁かれ、私の鼓膜は細やかな震えでさえも快感を感じてしまった。カカシがこんなに男だったなんて、私は知らなかった。

「カカシの嘘つき……」

稚拙な言い返ししか出来ない私に対して、カカシは今まで見たこともないほどに優しく笑った。

「それでもいいよ、名前の気が済むなら。俺は名前の旦那だからね」

なんでこんなことになっちゃったの。もう嘘はつくまいと、後悔した。カカシの硬く長い指が、私の体の上を滑っていく。

「名前、良いよね?」
「……す、好きにすれば!」
「ハハ、嬉しいよ」

カカシの体重が、ギシリとソファーに掛かる。

「エイプリルフールは、人が幸せになる嘘をつきなさいって言うけど……」
「そうだよね、ごめんなさい」
「うん、俺が一番幸せになれる嘘をついてくれるなんてね。ま、これから嘘じゃなくなるんだけど」
「…………」

嘘つきは泥棒の始まりとは言うけれど、盗まれてしまったのは私の方かもしれない。
こうしてきっと、この人に死ぬまで言いくるめられながら、幸せにさせられてしまうんだ。




嘘つきは何の始まり? end.

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