簡単な任務


私には好きな人がいる。
出来るなら、その手を繋ぎたいし、唇にだって触れてみたい。
でも、そんなの叶わないことだと分かってる。
だから、せめて近くで貴方を見ていたい。






「名前、霧との書状ってどうなってる?」
「あとは、六代目の判を押していただければ大丈夫です」
「さすが、仕事が早いね」

六代目は私が提出した書状に目を通し、ポンと判を押した。そして、私はそれを受け取って面をつける。

「じゃあ、気を付けてね」
「はい、届けてきますね」

私は、六代目の火影直轄暗部。

六代目が火影に就任してすぐ、任務明けの私の所へ来て「俺の右腕になって欲しい」と言って来た。
あの日、私は天にも昇る気持ちだった。ずっと昔から六代目の事が好きだったから。六代目がまだ上忍だった時代、隊長を務めた任務で、当時未熟だった私を殺させやしないよと言って助けてくれた。私を助ければ、任務が失敗するかもしれなかったのに。
余りにも簡単に私は恋に落ちて、ずっと六代目に追い付きたくて必死に頑張った。そして、私が上忍になったと同時に暗部入りが決まった。六代目は、あれからよく頑張ったね、と褒めてくれた。それだけで全てが報われた気がした。

霧との書状の交換は、暗部の私が行くまでもなかったんじゃないかと言うほどスムーズに終わった。任務が終わるのはとても嬉しい。仕事が終わったからと言うよりも、六代目のもとへ帰れると言う喜びが大きいから。

「ただいま戻りました」
「おかえり。怪我はない?」
「はい、大丈夫です」

六代目は、万年筆を下ろし机の前に立つ私を見上げた。六代目が私との会話で筆を止めるなんて、殆ど無いことだから私は焦る。

「どうかしましたか?」
「ん?いーや、名前無理してないかなってさ」
「へ?」
「いや、お前には頑張って貰ってるからさ」

何を言いたいのか分からず、私は面の下で六代目を見つめていた。

「名前、面取ってよ」
「はい」

言う通りに、面を取って髪を整えれば、六代目は満足そうに笑った。その笑顔があんまりにも爽やかで格好良くて、私の胸は簡単にドキドキと乱れた。

「あ、そうだ。これ次の任務」
「はい」

六代目は、一枚の紙を私に差し出した。

「依頼書?」

暗部の任務は、基本的に火影様から口伝で伝えられる。だから、正規部隊のように依頼書が渡されるのは滅多にない。

「えっと……」
「ランクもつかないような簡単な任務」
「え!?」
「まー、よく読んでみな」

いつもSかAなのに。一行ずつ目を通せば、私の名前が書いてあって依頼主には、はたけカカシ?え?えっと、任務内容は……。

「えっと、六代目、これは?」

紙から六代目に視線を移せば、完全に手を止めた六代目が頬杖をついていた。

「んー、俺と食事行こうか」
「ん、え?」

嬉しくて嬉しくてたまらない。でも、任務で食事?六代目の考えていることが分からない。私の目は、依頼書と六代目の顔を何度も行き来する。

「こうでもしなきゃ、二人で食事も行けないでしょうよ」
「し、しょくじ……」
「名前は俺の護衛」
「あぁ、なるほど」

六代目は、机上の書類を全て片付けて万年筆にキャップをした。

「って言うのは表向きで、本当は俺と食事行くだけ」

立ち上がった六代目は、頭に乗せていた私の面を撫でた。

「ま、着替えてきてよ。暗部服じゃーねぇ」
「は、はい!」

慌てる私が面白かったのか、上出来上出来と笑った。顔に熱が集まるのを感じて、私は慌てて執務室の扉を開けて出ていこうとする。その瞬間、背後から六代目の声が聞こえた。

「俺のそばに置いときたくて暗部に入れたのに、思いの外名前といられなくてガッカリだよ」
「え?」
「あら、聞こえてたの?」

いや、聞こえるでしょう。

「たまには、名前を独り占めさせてよ」

ニッと笑った六代目の目は明らかに上機嫌で、私の胸は勝手に高鳴った。

もしかしたら、願いが叶うかもしれない。

そう思ったら、私の足は勝手に走り出した。






簡単な任務 end.

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